一方、米10年国債利回りは10月21日に1.7%を付けてから足元では1.5%台前半で推移。期待インフレ率の指標とされる米10年物ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)も10月26日に2.69%の高値を記録してからは、足元で2.5%台での推移となっている。ともに直近ピークから落ち着いた動きになっていることを鑑みると、差し当たっては緩和策の長期化が過度なインフレを招くとの恐れにはつながっていないようだ。米国や英国で利上げに慎重な姿勢が確認されたが、インフレを巡る思惑が適度にコントロールされながら緩和策長期化への期待が高まることは、株式市場のサポート要因となりそうだ。
ただ、今週は米国や中国で消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)など、物価関連の指標が多く発表される。各国の金融政策関係者はすでに、供給ひっ迫に起因するインフレは来年以降まで続く見通しとの見解を示しているため、仮に10月の物価指標が市場予想を上回ったとしても、見方を大きく変える必要はないと考えられる。しかし、米国で主要株価指数が揃って過去最高値圏にあること、将来の株価変動率を表し、「恐怖指数」とも呼ばれるVIX指数が警戒水準の20を大きく下回っていることを踏まえると、市場は弛緩的なムードに浸っていると窺える。楽観に傾いている時こそ、小さな材料で大きく動くことがあるため、注意を払っておいた方がよいだろう。
他方、日本株に目を向けてみると、過去最高値を更新し続ける米国株と比べて上値の重い印象がくすぶる。日経平均は先週、4日に一時29880.81円まで上昇したが3万円を前にして騰勢が一服。日足ローソク足では週末にかけて2日連続で陰線を形成するなど、上値の重さが目立つ。
市場予想を大幅に上回る好調な決算が相次ぐ米国に比べて、日本では市場予想を上回る決算が相対的に少なく、上振れ度合いも小さい。資源価格の高騰や半導体不足は世界共通だが、そうした影響が特に大きい自動車セクターの比率が高いことが考えられる。また、他業種では、円安による輸入コスト増大や価格転嫁能力などの点でも海外企業と差があるようだ。先週は、トヨタ自動車<7203>が業績予想を上方修正しながらも、「円安効果を除けば資材高騰などで実質下方修正」とコメントしたことが象徴的だった。バリュエーション面では割安とはいえ、積極的に日本株を選好しにくい状況と言えるだろう。
また、需給面に目を向けると、10月29日申し込み時点の信用買い残高(東京・名古屋2市場、制度・一般信用合計)は3兆5961億円と前の週に比べ415億円増えた。2週連続の増加で、7月9日申し込み時点(3兆6041億円)以来の高水準となる。一方、信用売り残は6682億円と1040億円減り、ヒストリカルで見て低位にとどまっており、需給環境も良いとは言えない。今後も上値抑制要因としてくすぶりそうだ。
さらに、衆院選では、自民党が事前の予想を覆すほどの議席数を獲得し、ポジティブサプライズとなったが、そもそも岸田政権が掲げる政策は相場の支援要因にはなりにくいものが多い。また、大型経済対策への期待も高まっているようだが、現金給付策くらいしか具体的なものが出てきていない。政策がもっと明確に示されない限りは、海外投資家が日本株を積極的に買うことは期待しにくいだろう。
なお、今週は11月8日に9月景気動向指数、日銀金融政策決定会合の主な意見(10月開催分)、中国共産党中央委員会第6回全体会議(6中全会)(~11月11日)、9日に10月景気ウォッチャー調査、独11月ZEW景況感指数、米10月生産者物価指数、10日に10月工作機械受注、中国10月消費者物価指数、中国10月生産者物価指数、米10月消費者物価指数、米10月財政収支、11日に10月企業物価指数、10月都心オフィス空室率、12日にオプション取引に係る特別清算指数(SQ)算出などが予定されている。