日本の学校でみっちり英語を学んだのに、英語でのコミュニケーションが上手くできない──そんな人も少なくない。課題は山積している日本の英語教育において、どこをどう改善すればいいのだろうか。英語でも経営コンサルティングや執筆・講演活動を行う大前研一氏が考察する。
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今年のノーベル賞は、アメリカ在住でプリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎氏が物理学賞を受賞し、12月10日に授賞式がオンラインで行なわれる。
真鍋氏は1958年に東京大学博士課程を修了してアメリカ国立気象局に入り、1968年からプリンストン大学客員教授を兼任、1975年にアメリカ国籍を取得した。
受賞決定後の記者会見で、日本からアメリカに国籍を変えた主な理由を問われた真鍋氏は、こう答えた。
「In Japan people always worry about not to disturb each other. You know, they have a very harmonious relationship」(日本では人々はいつも他人を邪魔しないようお互いに気遣っています。彼らはとても調和的な関係を作っています)
「U.S. I can do things that I want like. I don’t worry too much about what other people feel … So that is one reason why I don’t want to go back to Japan, because I’m not capable of living harmoniously」(アメリカでは自分のしたいようにできます。他人がどう感じるかも気にする必要がありません。[中略]それが日本に帰りたくない理由の一つです。なぜなら、私は他の人と調和的に生きることができないからです)
真鍋氏の英語は、60年以上もアメリカに住んでいる割には流暢ではないし、発音もネイティブからはほど遠いが、シンプルでわかりやすく、とにかく自分の言いたいことを真摯に伝えようとしていた。だから、日本社会の同調圧力や研究環境に対する批判をユーモアにくるんだ前述の発言に、会場から笑いが起きた。つまり、英会話に表現の拙さや発音は関係ないのであり、それを証明したのが今回の真鍋氏の記者会見だった。
まるで古文や漢文を学ぶよう
もとより日本人は英語が大の苦手だ。英語能力指数ランキング「EFEPI」(2020年)によると、日本の英語力は世界100か国中55位で、韓国(32位)や中国(38位)よりも下である。「TOEFL iBT」テスト(2017年)の国別平均点はもっと悲惨で、日本はアジアの29の国・地域中26位だ。実際、学生もビジネスマンも英語の勉強に苦労している人が多い。
その一方で、英語教育熱は非常に高まっている。英語塾や英会話教室は盛況だし、親の7割が「子供をバイリンガルに育てたい」と考えているというデータもある。
だが、これまで大半の日本人は英語を中学校・高校・大学の10年間にわたって勉強してきたはずなのに、なぜこれほど上達しないのか、私は不思議で仕方がない。