──そのような商品は今後も出てきそうですか?
水野:当社の「ブレスサーモ」は着用中ずっと暖かく、汗などの臭いも抑える吸湿発熱素材ですが、開発は1994年のリレハンメル冬季五輪がきっかけでした。とてつもなく寒い場所でも、選手のパフォーマンスを維持するための素材が求められたのです。そうした素材は、防寒具などにも応用できると思います。
我々にはスポーツ用品を通じて蓄積してきた知見があります。そうした技術と発想をスポーツ以外の分野に転用できる可能性はあると思います。厳しい環境下や激しい動きにも耐えられる素材としてアスリートに認められているわけですから、質の高さには自信があります。
──スポーツ用品の枠を越えて、新たなビジネスを掘り起こしていくわけですね。
水野:来年、大阪本社の隣に約50億円かけて、研究開発拠点をオープンする予定です。スポーツの力で社会課題を解決する社会イノベーションの創出を目指します。アスリート向けのみならず、一般生活者向け商品を開発する拠点にもしていきます。
自ら新商品の“実験台”に
── 一方で、日本では少子化が進み、学校の部活動に参加しない子供たちも増えている。コロナ禍が収まったとしても、業界にとっては厳しい状況に見えます。
水野:スポーツ人口の母数が減っているわけですから、そこは仕方がありません。ですが、我々が種蒔きをしていけば、新たな市場を作れる可能性があります。
──例えば?
水野:今年の夏には高校女子硬式野球の決勝戦が初めて甲子園で開催されました。女子も野球に参加できる環境を整えれば、バットやグラブを買う層は確実に増えます。
また、日本の学校スポーツは“野球部に入ると野球だけ”“サッカー部ならサッカーだけ”となっていますが、アメリカではシーズン制があって野球の季節が終わればアメフトやバスケットの試合に出る。そうした文化が日本でも定着すれば、複数のスポーツに取り組む子供が増え、市場も広がります。
そうした取り組みは、スポーツ用品業界を挙げて取り組む必要があります。実際、同業のライバル他社とは「球活」といって、“もっと野球に親しんでもらおう”という主旨の啓蒙活動を一緒にやっています。