この秋、石油価格高騰でガソリンや灯油から、電気料金、小麦粉、食用油、パンといった食料品や牛丼などの外食まで値上げが相次いでいる。
政府は石油危機に備えて国家備蓄している石油を初めて放出することを決めた。トイレットペーパーや洗剤が買い締められて店頭から消えた1973年の「第1次オイルショック」の悪夢を経験した世代は、今回の「令和のオイルショック」に身構えている人が多いはずだ。
当時はニクソンショックの円高とオイルショックで輸出企業の業績が急速に悪化、物価上昇率20%を超える「狂乱物価」を招き、日銀は物価上昇を食い止めるために金融を大幅に引き締め、政府は緊縮財政で大型公共事業を軒並み凍結した。その結果、日本の高度成長は終わって大不況に突入した。
だが、現在の日本の経済環境は当時とはまるで違う。金融論が専門の相澤幸悦・埼玉大学名誉教授が語る。
「物価動向や為替、金融・財政政策は昭和のオイルショックと正反対の状況です。日銀はコロナ対策の異次元の金融緩和を続け、政府も事業規模約79兆円(財政支出約55.7兆円)という過去最大の経済対策を打ち出して積極財政にはっきり舵を切った。企業業績も上向いている。今回の原油高で日本は複合的な理由で優位な状況にあります。それをテコに日本企業が競争力をつけて賃金上昇につながれば、本格的な景気の好循環に向かうでしょう」
その日本の優位の一つが、輸出企業が儲かることだという。
「もともと資源に乏しい日本の企業は、海外から素材や原料を輸入して付加価値をつけて売るビジネスモデルです。その付加価値で勝負してきた企業が生き残っている。
石油や資源価格高騰でコストが上がるのは海外の競争相手も同じで、日本企業が不利になるわけではない。石油高騰のコストが価格に転嫁され、世界的に製品価格が上昇すれば、より付加価値が高く、競争力のある日本企業が絶対有利になります」(同前)