東芝の3分割案について綱川智・社長CEOは、「総合電機メーカーではなくなる」と記者会見で認めた。なぜ“日の丸家電”の象徴は解体に追い込まれようとしているのか……『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』の著者であるノンフィクション作家の児玉博氏が、その岐路に立ち返った。【前後編の前編】
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「サザエさん」「東芝日曜劇場」などの一社スポンサーとして、戦後の日本に寄り添うような存在だった「東芝」が消えようとしている。
1875年に田中久重による電信設備メーカー「田中製造所」にその源流を遡ることのできる東芝。100年をゆうに超え、常に名門と謳われた企業は、今やアクティビストと呼ばれる株主の言うがままに分割されようとしている。
名門企業は一体どこで何を間違えたのだろうか?
安倍政権が守った
検察官、佐渡賢一の名前を事件史に留めることとなったのは、佐渡が大阪地検検事正時代に捜査を指揮した「ハンナン事件」だった。
鈴木宗男ら政治家だけでなく、山口組とも密接な関係を持っていた大阪の「阪南畜産」。そして社長の浅田満は警察、司法の世界でもアンタッチャブルな存在とされていた。
そのタブーに挑戦し、浅田らを詐欺罪で立件したのが佐渡だった。捜査に当たり、佐渡は自らの部屋に捜査にあたる2人の検事を呼び出しては一升瓶を並べ、それを3人で明け方まで飲み明かした。
「阪南畜産」と聞いて、検事でさえ眉をひそめる中、「俺を信じてくれ」と言っては、“水さかずき”のようにして酒を酌み交わした。
その後、佐渡は証券取引等監視委員会委員長に転じ、検察時代と変わらぬ辣腕をふるい続け、2016年に退任するまで“株式市場の番人”として恐れられた。
その佐渡をして、「唯一の心残り」と言わしめたのが2015年に発覚した東芝による「不正会計事件」だった。