岸田政権は11月、コロナ禍で低迷する日本経済を活性化するため、55.7兆円にのぼる巨額の経済対策を打ち出した。財政支出の規模としては過去最大と報じられているが、経済アナリストの森永卓郎氏は、「“過去最大”と言うには違和感がある」と指摘する。いったいどういうことか、その理由について森永氏が解説する。
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多くのメディアが「過去最大規模」と報じた岸田政権の55.7兆円の経済対策。政府発表の資料によると、その内訳は国の支出分が43.7兆円、地方支出分が6兆円、財政投融資が6兆円で総額55.7兆円となり、民間資金などを加えた「事業規模」は78.9兆円にのぼるという。だがこの数字は、菅政権下で予算化された分も含めて計上されており、決算剰余金や2020年度からの繰越金を除いて、実際に2021年度に補正予算に計上されるのは32兆円程度に過ぎない。
これに対して、昨年度は1次、2次、3次と3回の補正予算が編成され、その合計額は77兆円だった。今年度の補正予算は今回で最後だろうから、実質的な経済対策の規模は前年比で58%程度減っていることになる。昨年度の4割程の規模というのが実態であるため、「過去最大」とするには違和感が残る。
具体的な政策の中身を見ても、昨年度は12兆8000億円の予算を投じて国民全員に一律10万円の特別定額給付金が給付された。しかし、今回岸田政権の目玉として発表された18才以下の子どもへの10万円相当の給付は、親の所得制限付きで給付対象者を絞ったため、最終的に給付金が行きわたるのは国民の14%程度だとみられる。言い換えれば、国民給付の予算は前年比86%減となっているのだ。
2022年1月頃から再開するとされる「Go Toトラベル」も、仕組みが見直され補助額が大幅に引き下げられる。旅行代金の割引率はこれまでの35%から30%になり、割引の上限も1万4000円から1万円に引き下げられる。従来6000円だった地域クーポンの上限も、再開後は平日3000円、休日1000円と大幅な減額だ。