過去数十年にわたり賃金がほとんど上がっていないうえ、年金の給付額も今後減っていくことが確実とみられる日本。このまま貯蓄を続けても、将来の老後資金を確保できるのか不安に思う人も多いだろう。経済アナリストの森永卓郎氏は、「年金だけで暮らせるよう、今から準備を進めておくことが大切」と語る。森永氏が、自らも実践する家計防衛術についてアドバイスする。
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最近、若い世代の間で「FIRE」という言葉が話題になっている。「Financial Independence, Retire Early」の略で、自由で豊かな暮らしを送るため、貯金や株式などで資産形成して経済的に自立し、若いうちから早期リタイアを目指すという生き方だ。もちろん、夢を描いて貯蓄や投資に励む心情は理解できるが、誰もが実現できるほど簡単ではないことも事実だろう。ましてや、いまは65才以降も働かないと暮らしていけない人が多い時代だ。
とはいえ、どんな仕事でも楽しく働けるのなら良いだろうが、生活のためにやりたくない仕事を嫌々続けるのは、ストレス以外の何ものでもない。ならば、せめて老後は年金だけで生活できる仕組み作りを今からやっておくのが得策ではないだろうか。それが出来れば、何が起きても過度に怯える必要はなくなるはずだ。
厚生労働省の資料によると、現在、夫婦2人のモデル世帯(夫が厚生年金に加入し、平均的な賃金で40年間就業し、その配偶者が40年間専業主婦だった場合)の標準的な厚生年金受給額は月22万円ほど。しかし、このモデル世帯の年金額は約30年後には月13万円程度にまで減額される見通しだ。そのため、この減額に合わせた家計の見直しが必要になる。特に、30~40代の現役世代は、いまから月13万円で暮らせる準備を始めておくべきだろう。
多くの人は、「とてもじゃないが月13万円では生きていけない」と思うかもしれない。現在、老後を送る夫婦2人の平均的な支出は月23万円程度とされているため、そう思うのも無理はない。だが、確かに都心で暮らしていれば難しいかもしれないが、住居を少し郊外に移すだけで生活費は大幅に削減できる。まずは住居を郊外に移し、そのうえでさらに生活コストをできる限り最小限にしていくのだ。