岸田文雄内閣が打ち出した経済対策をどう評価するか。経営コンサルタントの大前研一氏は、「18歳以下の子供1人あたり10万円給付」「マイナンバーカード取得者らに最大2万円分のマイナポイント付与」などを“愚策”として批判してきたが、さらに「賃上げ企業に対する税制支援の強化」についても愚策だと指摘する。どういうことか、大前氏が解説する。
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岸田首相は「分配」策の柱の一つとして、2022年の春闘で企業側に3%程度の賃上げを要請し、賃上げをした企業の法人税の税額控除率を最大で大企業30%、中小企業40%に引き上げる方針を固めたという。
だが、これは最悪の政策だ。なぜなら、安倍晋三政権も政府主導で企業に賃上げを促す「官製春闘」政策をかなり強硬に推し進めたが、何の効果もなかったからである。岸田政権が賃上げをした企業の税額控除率をどれだけ引き上げたところで、結果は同じだろう。
それよりも問題なのは、政府が「上から目線」で企業に賃上げを要請することである。これは全体主義国家や計画経済の社会主義国家でしかやらない政策だ。
経営者にとって従業員の賃金は“最も神聖な数字”である。賃上げをするためには“理屈”が必要であり、それは「生産性が上がった」ということだ。逆に言えば、日本企業の賃金が上がらないのは生産性が上がらないからで、生産性が上がらないのに賃金を上げたら、企業はつぶれてしまう。
そんな基本的なこともわからずに政府が賃上げを強要し、賃上げをしたかどうかによって法人税の税額控除率を決めるというのは、経営判断を愚弄するものであり、「新しい資本主義」どころか、資本主義に対する冒涜にほかならない。
日本企業の場合、徹底的にDX(デジタルトランスフォーメーション)をやれば生産性は上がる。だが、それを実行したら間接業務のホワイトカラーは10分の1の人数で済むので、9割が解雇されることになる。そうなってもよいのか、失業した大量のホワイトカラーを引き受ける覚悟が政府にあるのか、ということだ。