2022年に創業100年となる「百寿企業」は、創業時から受け継がれる精神や柔軟な発想力など、さまざまな強さを持っている。そこに加えて、企業が100年間生き残るには、「運」も必要になるだろう。
様々な施設の設備工事を行なう横山設備工業(東京都中野区)は、従業員数60人の小さな会社だ。もともとは風呂桶などをつくる木工所だったが、のちにポンプや給排水設備の工事を行なうようになった。大きな僥倖が訪れたのは、戦後まもない1945年の暮れだった。同社の横山哲三社長が語る。
「先代社長である私の父が夜中に近所の方からポンプの修理を頼まれて、急いで駆けつけて直したんです。するとその方が実は日本銀行に勤める行員で、『日銀の設備工事をしてくれませんか』と頼まれました」
日銀の出入り業者となると仕事が増え、新たな取引先を次々と紹介してもらえたという。その後、先代社長は近所の人の誘いで、都内のアパート付きの土地を購入し地主となった。
当時は超インフレだったが、「欲を出してはいけない」とそのアパートの賃貸料金を据え置くと、ある住民が「ウチの会社の設備工事もやりませんか」と言ってきた。ここでも縁が巡ってきた。
「今度はその方が日本生命の社員さんだったんです。高度経済成長期の当時は金融機関の業績が右肩上がりで、たくさんの仕事先を紹介してもらえました。『欲を出さず、困っている人がいたら、すぐ対応すること』という先代の方針で、日銀や日本生命など、大手さんとのご縁ができました」(横山社長)