「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ」──働くことは、日本国憲法第二十七条一項に定められた国民の義務だ。だが、人生の大半の時間を仕事に費やすだけに、どんな職業に就くかで「健康」は大きく左右される。激務の仕事は、脳や心臓といった肉体的な疾患だけでなく、メンタルにも大きな損傷を与えることもある。
2020年度の精神障害の労災請求件数の多い業種を見ると、「社会保険・社会福祉・介護事業」の275件がトップ。さらに、支給決定件数の多い業種でも79件で首位だ。秋津医院院長の秋津壽男さんが、その重労働を指摘する。
「利用者から夜中に呼び出されて薬を出すだけならまだしも、介護士は汚物の処理などで何時間もかかってしまうこともあります。こうした状況が続けば、当然、肉体的にも精神的にも大きな負担になります。同じ夜勤でも、警備員は基本的に労働基準法で守られている範囲の仕事を行えば問題ありませんが、利用者と向き合う介護士はそうはいかない」
精神障害の労災請求の多い業種は「医療業」(209件)、「道路貨物運送業」(101件)と続く。NPO労働相談センター副理事長の須田光照さんは、看護師やドライバーといったエッセンシャルワーカーが上位に入っていることに言及する。
「医療従事者や運転手、介護従事者、学校や保育園の先生といったエッセンシャルワーカーはコロナ禍でもオンライン化できず、リアルの現場に出て高齢者や子供などの世話をしています。そのため感染リスクに直接さらされることになり、精神的負担から辞職する人もいました。結果として人手不足が加速し、残って働く人の負荷がより高まるという悪循環になりました。
介護施設や病院、学校や保育園は社会に不可欠のインフラなのに、利益を生みだす製造業や金融業などと比べて軽視されがちです。コロナ禍でエッセンシャルワーカーの人たちに感謝しようという社会現象が一時的に起こりましたが、待遇改善にはつながっていません」
人間を相手にする最も重要な職業ほど窮地に立たされ、労災請求が増えているのが現状なのだ。
※女性セブン2022年1月20・27日号