働いてお金を稼ぐことは、生きるために当然のこと。だが、何の職業に就くか、その選択によっては「健康格差」が生まれることもあるという。職業と病気の関係性について、秋津医院院長の秋津壽男さんは「所得」が深く影響すると話す。
「所得が低いと症状があっても通院につながりにくく、病気の発見が遅れて重症化しやすい。医療費を払いたくないからと病気があっても治療しないケースもあります。新型コロナウイルス感染症の流行でアルバイトがなくなり、糖尿病や高血圧などの治療を中断した患者もかなりいます」(秋津さん・以下同)
そして「職業病」というものもある。
「よく知られる例は、印刷業とがんの相関です。過去にインキ洗浄液のジクロロプロパンとジクロロメタンが膀胱がんや胆管がんを引き起こすことがわかり、現在は規制対象になりました」
「座りっぱなし」も健康リスクが高くなる。
「長距離トラックのドライバーやタクシー運転手など、座る時間が長い職業はエコノミークラス症候群になり、血栓ができる危険があります。最悪のケースでは、血栓が原因での脳梗塞や心筋梗塞で突然死することもある。自由に休憩が取りにくいタクシー運転手は、脚の血管が詰まって血管が壊死する動脈硬化症を起こす恐れもあります」
スウェーデンの研究では、タクシー運転手とバス運転手の心筋梗塞の発症リスクをほかの職種と比較した。すると、タクシー運転手は1.65倍、バス運転手は1.55倍も心筋梗塞のリスクが高かった。コロナで打撃を受けた飲食業で働く人は、肝臓にまつわる職業病に気をつけたい。
「バーやクラブでは接客時にお酒を積極的に飲むので、肝臓を壊しやすい。また大手酒造メーカーの営業職は飲食店を回って、自分の会社の酒を注文するという営業を伝統的に行います。客の注文が多くなると飲食店はメーカーへの発注を増やすからです。私の患者にも肝臓を患った酒造メーカーの社員がいますが、『仕事だからやめられない』と言います。コロナ禍が落ち着いたら、また患者が増えるかもしれません」
飲食チェーンの店長も油断はできない。
「飲食チェーンなどの店長は、下で働くバイト店員は言うことを聞かず、上からはノルマでガミガミ言われます。板挟みになって過労死、うつ、燃え尽き症候群になるケースが目立ちます」