2023年度発足予定の「こども家庭庁」は、省庁間で縦割りになっている「子供に関する政策」を一元的に管理する狙いがあるが、移管には課題が山積しているという。経営コンサルタントの大前研一氏が、こども家庭庁の問題点について分析する。
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政府は、子供政策の司令塔として新設する「こども家庭庁」の関連法案を1月17日に召集した通常国会に提出し、2023年度に職員300人規模での発足を目指すという。
昨年12月に閣議決定した「こども政策の新たな推進体制に関する基本方針」によると、こども家庭庁は首相の直属機関(内閣府の外局)で、専任の大臣と長官を置き、他省庁の大臣に対する「勧告権」を持つ。対象は「基本的に(成人する)18歳までの者」で、厚生労働省や内閣府などが担当している保育所、児童虐待防止、一人親家庭支援、子供の貧困対策、少子化対策といった分野を移管し、現在は省庁間で縦割りになっている子供政策を一元的に推進することが目的だ。
しかし、同庁は「大山鳴動して鼠一匹」の典型になるだろう。子供たちのことを本当に考えるなら、そもそも「庁」ではなく「省」にして、単に厚労省や内閣府が所管していた部門・法律を移すのではなく、ゼロベースで政策のコンセプトを一新すべきである。
言い換えれば、「親」や「世帯」といった“戸籍本位”の政策から“子供本位”の政策に転換しなければならないのだ。そのためには300人程度の職員では足りないし、幼稚園が「義務教育との整合性を維持する必要がある」と主張した文部科学省の反発によって同省に残されることになったのは、岸田文雄首相の指導力の欠如だ。その理由なら保育所や認定こども園の園児は小学校で受け付けないとしなければ理屈に合わない。
また、こども家庭庁という名称は、もともとの「こども庁」が自民党保守派の「子供は家庭で母親が育てるもの」という家庭重視の古い家族観によって変更されたものだというが、これは21世紀のダイバーシティ(多様性)にそぐわない。そういう戸籍=家という古い価値観が、結婚していない母親から出生した婚外子(非嫡出子)に対する差別や夫婦別姓を認めない硬直した政治につながり、ひいては少子化問題のボトルネックになっているからだ。
たとえば、未婚の母や婚外子に対して日本のような差別や偏見がないフランスでは、総出生数に占める婚外子の割合が6割(2016年)に達している。そして、育児給付は子供の数が増えるに従って増額され、所得税も「N分のN乗」方式によって子供の数が増えれば増えるほど減税される。つまり、子供を産めば産むほど得をするから、合計特殊出生率(1人の女性が一生の間に産む子供の数に相当)が1.87(2019年)と高いのである。