【書評】『ブルシット・ジョブの謎 クソどうでもいい仕事はなぜ増えるか』/酒井隆史・著/講談社現代新書/1012円
【評者】森永卓郎(経済アナリスト)
ずっと疑問に思っていたことがある。機械化やコンピューター化で生産性が大きく上がっているのに、なぜ休みが増えないのかということだ。本書は、明快な答えを示してくれた。それは、ブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)が増えているからだ。得心がいく結論だ。私自身、上司に命じられて、何の意味もない仕事をこれまで積み重ねてきたからだ。
本書は、人類学者のデヴィッド・グレーバーが2018年に公刊した書籍を、訳者の一人でもあった著者が、独自の見解を加えて解説したものだ。学術書というのは、正確を期すために、どうしても冗長になる。その点、本書は要点をコンパクトにまとめているので、とても読みやすい。
ブルシット・ジョブが増える理由を本書は、いくつか類型化して示している。一つは、権力者が自身の力を誇示するためだ。例えば、ビルのドアマンの仕事は、ドアを開けることではない。権力者の虚栄心を満たすことだ。その他にも、ロビイストや企業弁護士など、本質的な付加価値を生まない仕事が、権力者の都合や新自由主義化のなかで増えているのだ。
一方、本書の重要な指摘は、本質的な付加価値を生むエッセンシャルワーカーは、報酬が低いという現実だ。なぜ社会にとって大切な仕事は、報酬が低いのか。本書は、やり甲斐のある仕事をしている人は、仕事そのものから効用を得られるから、高い報酬は要らないという価値観があるからだという。それもあるのかもしれないが、私は権力者が反乱を防ぐために彼らを生かさず殺さずにしているからだと思う。
いずれにせよ、ブルシット・ジョブを減らすにはどうしたらよいのか。本書は、現状の社会保障に手を付けず、一律に追加給付をするユニバーサル・ベーシック・インカムの導入を提唱している。暮らしに不安がなくなれば、労働者は自らの判断でブルシット・ジョブをしなくなる。ベーシック・インカムの導入が進まないのは、権力者がそのことを分かっているからではないのか。
※週刊ポスト2022年2月4日号