人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第32回は、コロナ禍でも高値更新が続いてきた株式市場を襲う不安材料を紹介する。
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オミクロン変異株の感染拡大が本格化する一方で、現時点では重症化リスクが低く、今後経口薬の普及も見込めることから、経済は徐々に正常化に向かうだろうと楽観的な予想をする声も増えている。しかし、深刻な問題として浮上しているのが、経済再開の副産物として生まれた「物価上昇」だ。
コロナ禍で世界的なサプライチェーンの目詰まりが続き、半導体をはじめとした部材の供給不足などによって、世界的に物価上昇圧力が高まっている。コロナ禍の景気低迷を防ぐため、これまで「超低金利」と「資産の買い入れ(流動性供給)」を強化して株高を支えてきたFRB(米連邦準備制度理事会)だが、インフレを抑制するため、今度はテーパリング(金融緩和の縮小)を加速し、さらには「利上げ」と「バランスシート縮小」による流動性の吸収も急ぐ考えを示した。
そして現在、市場で注目されているのが、その時期である。金融緩和を止めて利上げに踏み切る時期は、当初2022年夏頃と見られていた。だが、急速なインフレ進行によって3月にも前倒しされる可能性が高まっている。また、当初は年3回と予想されていた利上げの回数も年4回に増えるという見方もある。
FRBが利上げに踏み切っても、保有資産を売却する「バランスシート縮小」を実施するまでには時間をかけると見られていた。しかし、それも早ければ6月あるいは7月まで一気に前倒しされるとの観測が広がっている。FRB以外にも、英イングランド銀行や韓国銀行などが利上げを急ぐ可能性が高く、金融市場を取り巻く環境が一変すれば、世界的に金融市場が不安定化する恐れがある。