真壁昭夫 行動経済学で読み解く金融市場の今

「メタバース」は仮想空間ではなく超越空間 テレビ登場以上の衝撃か

Metaが提供するバーチャル会議室サービス。利用者はアバターを通じて参加する(写真/Meta提供、時事通信フォト)

Metaが提供するバーチャル会議室サービス。利用者はアバターを通じて参加する(写真/Meta提供、時事通信フォト)

人類がこれまで経験したことのない世界へ

 遡ると、これまで私たちを取り巻く現実社会では、聞くだけの「ラジオ」から、映像を見て様々な情報が得られる「テレビ」の登場に続き、「パソコン」や「スマホ」がインターネットとつながることで自ら情報を取りに行くことが可能な環境となった。そして、コロナ禍になってリモートによるコミュニケーションが一気に普及していったが、いずれも空間の向こう側とこちら側は隔てられていた。

 そうした垣根がメタバースによって取り払われようとしている。ネット上の仮想空間とはいえ、そこで共有する空間と時間の臨場感は従来の比ではない。この世にテレビが登場した時以上のインパクトを秘めているのではないだろうか。

 メタバースの世界を心理学的に考えてみると、活動空間が無限大になっていくことによって、人類はこれまでの「体験主義」から「空想主義」へと変わっていくことが予想される。

 どういうことかと言うと、これまで私たちは現実世界で経験したものを体系化して理論を構築してきた。それがメタバースによって仮想世界が無限に広がり、これまで経験したことのない世界で、アバターを通じて様々な活動を繰り広げるようになる。つまり、頭の中で広がる空想がまるで現実のように動き出すわけだ。分かりやすく言えば、行きたい世界に誰もが入っていける「どこでもドア」が開こうとしているのだ。

 現代のテクノロジーにおいては、メタバースはいまのところ究極の形と言え、世界中に広まるのは間違いない。世界中の企業にとって、そこに大きなビジネスチャンスがあるのは疑いようもないだろう。だとすれば、メタバースに対応できる企業とそうでない企業の格差が拡大するのも必至の情勢だ。個人も然りである。大きな分かれ道であるいま、乗り遅れないようにしたいところだ。

【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。法政大学大学院教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。最新刊は『ゲームチェンジ日本』(MdN新書)。

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