人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である法政大学大学院教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第33回は、世界で注目が高まる「メタバース」のインパクトについて分析する。
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昨年、米フェイスブックが「メタ(Meta)」へと社名変更したこともあって、今世界中で注目を集めている「メタバース(Metaverse)」。結論から言えば、2022年はいよいよメタバースの本格的な普及が始まり、株式市場の最有力テーマとなると見ている。最大の理由は、メタバースが世界各国の企業に多くの新しいビジネスチャンスをもたらし、人々の生き方を大きく変える可能性を持つからだ。
まずメタバースとは何か。メタバースはメタ(Meta:超越した、何にでもなれるといった意味をもつギリシャ語の接頭辞)と、ユニバース(Universe:宇宙、森羅万象、全世界などの意味)を組み合わせた造語だ。つまり、これまでの常識を超越した世界をネットワーク上のデジタル空間で実現するための多種多様な理論(発想)、技術などを指す。
日本語では「インターネット上の仮想空間」などと訳されることが多いが、実際には「超越空間」と言うべきだろう。イメージとしては、ひとたびその世界に入ると、新しい発想や満足感が次々に得られるような、臨場感を持ったデジタル空間、といった感じではないだろうか。
これまで発展してきたインターネットの世界では、私たちは常時ではなく、必要に応じてパソコンやスマホを操作することで、ネット上で情報を検索したり、会議を行なったりすることができた。ところが、メタバースの世界では、デジタル空間における活動と現実社会での行動がリアルタイムでつながるようになると考えられている。
その違いは想像以上に大きい。メタバースによるデジタル空間では、現実世界が限りなくリアルに近い形で、よりダイナミックに再現されるようになるだろう。そのなかで人々は「アバター(分身)として活動するようになり、まるで現実世界のように、世界中の人々と交流することも可能になる。