不動産売買が活発な背景には、2013年からのアベノミクスと異次元の金融緩和、いわゆる「黒田バズーカ」による株価上昇、不動産価格の上昇などが考えられる。そこに訪れた2020年以降のコロナ禍が、さらに拍車をかけたというのが長嶋氏の見立てである。
「2020年4〜5月の緊急事態宣言でステイホームとなり、自宅にいる時間が長くなったことで住宅の価値に対して見直す人が多くなり、持ち家志向が高まったのです。
こうしたネガティブな事態が起きたときは、通常はリーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)のときのように購買意欲が下がるので、不動産の“投げ売り”が起こります。しかし、今回は緊急事態宣言の期間が短かったために購買意欲が下がらず、したがって不動産価格も下落しませんでした」
東京都心部では1戸7000万~8000万円のマンションが当たり前になっているため、購入を諦めた層が郊外で購入しようという意欲が高まっており、町田、相模原、大宮、柏といった地域も不動産価格が上昇傾向という。不動産の売却を考えている人にとっては、「売り時」はもうしばらく続きそうだ。
ただし、これは不動産価格を決める要素において好立地の場合が前提であることは頭に入れておきたい。駅から近いかどうか、その駅は主要駅かどうか(いわゆる路線価)といった、不動産価格を決めるファクターが前提になることはこれからも変わらない。
ライフイベントだけによらず、資産のことも考えながら柔軟に住み替えていくことは、何が起こるかわからない、不確実性の高い今の世の中を生き抜く、ひとつのスキルと言えるかもしれない。
◆取材・文/岸川貴文(フリーライター)