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春の訪れ告げる「春一番」のメカニズム 冬のコートの出番いつまで

春を迎え、愛知県・岡崎城周辺に広がる800本の桜の花見を楽しむ人々(写真/Getty Images)

春を迎え、愛知県・岡崎城周辺に広がる800本の桜の花見を楽しむ人々(写真/Getty Images)

春一番の後には気温が5℃以上下がることも

 春一番が吹く時期は年によって大きく異なる。肝心の低気圧が日本海を通過する時期が、地球全体の大気循環や気圧配置などの状況によって毎年異なるからだ。関東地方の春一番の時期を見ると、2021年が2月4日、2020年が2月22日、2019年が3月9日、2018年が3月1日、2017年が2月17日、2016年が2月14日、2015年は観測なしとなっている。何の傾向もないし、地球温暖化で早くなってもいない。そのため、気象庁では春一番が吹く日の平均は意味がないとして統計を取っていない。

 東京で春一番が吹くと、平均気温は前日比で2℃以上、最高気温では4℃以上上昇することが多い。暖かさで言えば、平年値と比較すると季節を1か月以上先取りしたことになる。冬のコートではもはや汗ばんでしまい、春の服を衣装ケースから取り出すきっかけになるだろう。

 しかし気を付けねばならないのが、春一番が吹いた後、必ず寒い日が戻ってくることだ。日本海を通過する低気圧から伸びる寒冷前線の前方では強い南西風が吹き、日本列島に暖かい空気をもたらす一方で、寒冷前線が通り過ぎると風向きは北西方向に変わり、今度は大陸からの乾燥した冷たい空気が運ばれてくる。数日は太平洋の南方からの暖かい空気が残ることもあるが、その後は必ず気温が低下してしまうのだ。過去6年間で見ると、春一番の2日後から1週間後にかけて平均気温は2℃以上下がり、大きく下がる年では5℃以上下がることもある。

 春一番が吹いても、その数日後は平年値を下回り冬に逆戻りするため、寒い季節から脱したと喜ぶのは早いだろう。春の服を出したとしても、しばらくは冬のコートの出番はまだまだ多い。寒暖の差が大きい日々が繰り返され、そうした変動の先に本当の春はやってくる。長い目で春の訪れを待ちたいものだ。

【プロフィール】
田家康(たんげ・やすし)/気象予報士。日本気象予報士会東京支部長。著書に2021年2月に上梓した『気候で読み解く人物列伝 日本史編』(日本経済新聞出版)、そのほか『気候文明史』(日本経済新聞出版)、『気候で読む日本史』(日経ビジネス人文庫)などがある。

桜の開花とともにやって来る入学式シーズンも春の風物詩(写真はイメージ)

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