意外にもFさんの娘が通う塾では都立校志願者は1月に入ってからも対面授業だったという。
「都立の場合、記述式の問題がほとんどなので、対面授業でないと難しいということでした。また、今年はコロナ感染者や濃厚接触者を対象にした後日試験があるんです。しかも筆記試験なしで面接だけで合否を決める。そのため、万が一に備えて面接の練習も行なっていました」(Fさん)
逆に「是が非でも大学付属中学に」と意気込んでいたのは、飲食店経営者のHさんだ。
「夫婦ともども地方の高卒で仕事の選択肢が少なかったため、息子は大学に行かせたかったんです。でも、親が無理に言っても本人の気持ちが折れてしまうので、子供のほうから『中学受験したい』と言うように仕向けてきました。塾でしか勉強せず、お世辞にも成績は良くなかったですが、一度も『やめたい』とは言いませんでした」
3年間にわたる努力の結果、複数の学校から合格を勝ち取った。
「息子は合格者内の順位が低かったので『不甲斐ない』といって悔し泣きしていました。息子は本当によく頑張ったし、受験を通して親子が成長できた」(Hさん)
父親によって中学受験への入れ込み方には差があるが、教育ジャーナリストのおおたとしまさ氏はコロナ禍が追い風だったのではないかと指摘する。
「これまでの中学受験では、“毎日遅くまで塾に通うのが当たり前”“夫婦どちらかが子供につきっきりになれないと合格できない”と言われてきました。しかし、コロナ禍で授業がオンラインになり、親もテレワークが増えたことで変化が生じています。一方で、必ずしも中学受験をしなければならないわけでもない。中学受験で得られることの何をメリットとして、何をデメリットと感じるかは人それぞれ。過熱状態にあるからこそ、冷静に考えるべきです」
「二月の勝者」が人生の勝者になるわけではない。
※週刊ポスト2022年2月18・25日号