中国やロシアとの間に緊張感が高まるアメリカ──。こうした国際情勢の緊迫化は、アメリカの同盟国である日本にも影響を与えるだろう。今後の日本とアメリカの関係性をどう考えるべきか、経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
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岸田文雄首相は1月21日、アメリカのバイデン大統領と初のテレビ会談を行ない、東シナ海、南シナ海、香港、新疆ウイグル自治区を含む中国をめぐる諸課題や北朝鮮の核・ミサイル問題、ウクライナ情勢について、日米が緊密に連携していくことで一致したという。
「緊密に連携していく」というのは、もちろん対等な関係ではなく、これまで通り「日本がアメリカに従属していく」という意味である。日米安全保障条約と在日米軍による施設・区域の使用の在り方や我が国における米軍の地位について定めた日米地位協定がある限り、基本的に日本はアメリカに従属せざるを得ない。
それを象徴する最近の出来事が、新型コロナウイルス第6波で在日米軍が沖縄などの基地周辺自治体に感染を拡大させたとみられる問題だ。日米地位協定で「合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族は、外国人の登録及び管理に関する日本国の法令の適用から除外される」(第9条)と定められているため、米軍関係者が海外から在日米軍基地に直接入る場合は日本側の検疫が適用されず、出国前にきちんと検査していなかったことが要因と指摘されている(一方、米軍関係者が日本から米本土に帰国する際は検査が必要だったと報道)。
言うまでもなくアメリカは日本の同盟国であり、安全保障でも経済面でも日本にとって最も重要なパートナーである。だが、近年のアメリカは大きく変質し、傲岸さや自国第一主義(ミー・ファースト)が目に余る。
たとえば、すでに本連載(『週刊ポスト』2022年1月28日号)で述べたように、アメリカは新疆ウイグル自治区の綿製品生産が強制労働で人権侵害だと批判しているが、アメリカも19世紀は南部の綿花プランテーションで黒人奴隷に過酷な労働を強いていた。中国共産党・習近平政権の独裁体制による人権侵害は厳に批判されるべきだが、アメリカもまた苛烈な人権抑圧をしていた過去があることを忘れるわけにはいかない。