ところが、安倍元首相は昨年12月、オンライン講演で「台湾有事は日本有事だ。日米同盟有事でもある」と述べ、中国側の強い反発を招いて米中対立の火に油を注いだ。安倍元首相がゴリ押しして成立させた集団自衛権を容認する安保法制により、有事の際に日本の自衛隊は米軍の指揮下に入って後方支援をすることになったが、もし「台湾有事」となって米中が戦端を開いたら、在日米軍基地がある沖縄や横須賀、佐世保、岩国、横田などだけでなく、全国各地の自衛隊基地も攻撃目標になりかねない。
無論、独裁中国に対して安易に譲歩したり妥協したりするような“朝貢外交”は断じてすべきではないが、日本は中国と独自の対話チャンネルを持つべきであり、それは安倍元首相と少し距離を置く岸田首相や林芳正外相に期待したいところである。先のテレビ会談の内容を見る限り、ないものねだりかもしれないが。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『日本の論点2022~23』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『稼ぎ続ける力 「定年消滅」時代の新しい仕事論』等、著書多数。
※週刊ポスト2022年2月18・25日号