日本人の食への信頼を揺るがす食品偽装がまた繰り返された。大量の外国産アサリが「熊本県産」として販売されていた問題だ。社会問題に詳しいライターの奥窪優木氏は、「アサリは氷山の一角。他にも同様に“産地ロンダリング”されている食物は多い」と指摘する。なぜ産地ロンダリングは起きるのか、そのカラクリや輸入食品を取り巻く問題について、奥窪氏がリポートする。
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国内に出回るアサリの多くが、中国などから輸入された外国産アサリを国内の海や浜でごく短期間畜養しただけで、「熊本県産」として産地ロンダリングされていた食品偽装問題。農林水産省の調査では、昨年10月からの3か月の熊本県産アサリの推計販売量は2485トンで、全国で小売販売された量の約8割を占めていた。しかし、2020年の熊本県の漁獲量は21トンに過ぎず、大規模な偽装が常態化していたことがうかがえる。
実は、生育途上で輸入された水産物が、その後、一定期間を経て国内産として生まれ変わる「食品の帰化」は食品表示法でも認められている。しかしこれには、輸入後の国内での生育期間が、原産地での生育期間よりも長くなければならないという条件がある。いわゆる「長いところルール」だ。このルールを悪用し、産地を偽装する業者も後を立たないという。
今回のアサリの件でも、実際には国外での生育期間の方が長いためルールが適用されないにもかかわらず、国内での生育期間の方が長くなるよう書類を偽装するなど、ルールを「盾」にしてきた業者の悪質さが明らかになっている。
アサリだけでなく、国産と銘打っている養殖ウナギも、実は出自は中国生まれというケースが多い。ウナギの養殖においては、自然界で捕獲した天然の稚魚(シラスウナギ)を養殖池に入れて成魚に育てるが、そのシラスウナギが外国産ということも珍しくないからだ。水産庁が公表している2021年漁期(2020年11月~2021年10月)のシラスウナギの池入数量は18.3トンだったが、そのうち7トンは中国を中心とする外国産だ。
ただ、シラスウナギの池入れから成魚になるまで、半年から1年半かかるため、ウナギに関しては長いところルール違反による産地偽装は、あまり心配しなくてもいいかもしれない。一方で、生育途中で輸入された農産品については、原則的に長いところルールが課せられていない。日本の食卓に欠かせないものとしてはシイタケが代表例だ。