また、今回の地政学リスクに関する一件をポジティブに捉えるなら、事態が急速に悪化した分、悪材料の織り込みもかなり進んだともいえる。日米ともに、主要株価指数を対象とした商品投資顧問(CTA)など短期筋による売り持ち高はかなり積み上がってきているようで、需給的にも先週末の買い戻しが進展する余地はまだ残されている可能性があろう。
今週は、週半ばにパウエルFRB議長の議会証言が予定されている。3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)前にヒントを得ようと神経質な展開が想定される。また、米サプライマネジメント協会(ISM)が発表する景況指数のほか、週末には米2月雇用統計が発表される。内容を見極めたいとの思惑から週末は手控えムードが広がる可能性もある。それでも、米ナスダック総合指数や日経平均株価の調整は、値幅的にも日柄的にもかなり進んでいるといえ、基本的には持ち高調整の買い戻しが進む可能性が高いと予想する。
他方、地政学リスクは目先一服したとはいえ、油断は禁物だ。ウクライナでは同国東部だけでなく首都キエフまでがロシアの手に落ちる寸前とされている。ロシア大統領府のペスコフ報道官は、ウクライナでの軍事作戦がどれ程の期間続くのか、ウクライナ全土に軍を展開するのか、ウクライナに新政権樹立を狙っているのかについてはコメントを控えたという。一方で、ロシア与党幹部議員は侵攻の目的について、「ウクライナに親ロ派政権を樹立して米国の影響力を排除すること」だと言明したとも伝わっている。故に、事態は依然混迷を極めており、波乱の余地は残されている。
また、ウクライナは天然ガスや鉄鋼製品、農産物などのインフラ網として重要な地点だ。発動される可能性は低いものの、ロシアのSWIFT排除や新たなエネルギー関連の制裁が科されるとなれば、世界経済への打撃は大きく、既に高止まりしているエネルギーや食料品の価格の一段の上昇が予想される。その場合、ウクライナ情勢を巡る不確実性を受けて、金融引き締めペースが後退するとのにわかな期待も再考を迫られることになり、むしろ、金融引き締めの加速を警戒する必要がある。中長期的には、個人消費の停滞などによる実体経済の落ち込み、スタグフレーション(インフレ高進と景気後退の併存)リスクも警戒されよう。短期的にはリバウンドを予想するものの、中長期的な下落トレンド下でのあや戻しになるリスクも否定できず、その点には留意したい。
今週は28日に1月鉱工業生産指数、1月住宅着工統計、世界最大級の携帯端末見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」(~3月3日)、3月1日に2月新車販売台数、中国2月製造業PMI、中国2月財新製造業PMI、米2月ISM製造業景気指数、バイデン米大統領の一般教書演説、2日に10-12月期法人企業統計、米2月ADP全米雇用リポート、米地区連銀経済報告(ベージュブック)、3日に米2月ISM非製造業景気指数、米1月製造業受注、4日に1月失業率・有効求人倍率、米2月雇用統計などが発表予定。