「うちのホテルはすでにお客様にフロントで歯ブラシやカミソリを持っていってもらう方式にしましたが、『部屋に歯ブラシがない!』『高いお金を払っているのに、ホテルのサービスがなっていない』とお客様から怒りの声が届いています……」
こう嘆きの声を上げるのは、都内のあるホテルの従業員だ。コロナ禍で苦境に喘いでいるホテル業界をさらに悩ませているのが、2022年4月から施行される「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(通称:プラスチック資源循環促進法)」だ。
環境省のホームページによると、海洋プラスチックなどによる環境汚染が世界的問題になっているなか、日本は1人当たりの容器包装廃棄量が世界で2番目に多いという。そこで政府はプラスチック製品の「3R」(リデュース、リユース、リサイクル)を促進し、環境に配慮したバイオマスプラスチックなどの使用を増やすために、「プラスチック資源循環戦略」を策定した。
この戦略を受けて成立した「プラスチック資源循環促進法」は、飲食店や宿泊業などに対して、消費者に無償で提供するプラスチック製品12種類を減らすことが定められている。ホテル業界で対象になるのはヘアブラシ、くし、カミソリ、シャワーキャップ、歯ブラシの5品目だ。
そのため、4月からは冒頭のホテルのように多くのホテルがアメニティを客室に置かず、宿泊者にフロントなどで必要な分だけ取ってもらう方式に切り替えることが予想される。
「アパホテル」を運営するアパグループは「アメニティは今まで通り客室に設置いたしますが、4月以降は、各アメニティの製造在庫が終了するタイミングで、バイオマスや再生プラスチックなどの原料に改良したものに順次切り替えていきます」(広報課)と、宿泊者に不満を感じさせないようにアメニティ自体を改良するようだが、こうした取り組みは一部の大手に限られるだろう。
ホテル業界もどう対応すべきか苦慮しているようだ。某ビジネスホテルチェーンの関係者が語る。
「環境省のホームページを見ても具体的にどれだけの量を減らせばいいかといったことが書かれておらず、罰則も規定されていない“努力目標”なので、どう対応したらいいか苦慮しています。もちろん環境保護やプラスチック削減には賛同しており、減らすためのアクションも考えているが、現状はライバル社の対応を見てから決める予定です」