HONDAとSONY。日本が世界に誇る自動車メーカーと電機メーカーの両雄が手を組み、次世代EV(電気自動車)事業で戦略的提携することを電撃発表した。夢のタッグの実現には、70年越しに結び直された創業者同士の絆があった。【前後編の前編】
3月4日、世界をあっと驚かせるニュースが飛び込んできた。二輪から四輪、そして小型ジェット機に参入して市場を席巻する「世界のホンダ」と、ウォークマンで音楽を歩きながら聞くという新しいライフスタイルを作り、その後もPlayStationなど新分野の製品を次々に生み出した「世界のソニー」の提携発表は、国際的なEV開発競争に“ゲームチェンジャー”の登場を予感させる。共同開発する第1号の車種は、3年後の2025年にも発売するという。
この「世紀の提携」は急転直下まとまった。本田技研工業の三部敏宏・社長はこの日の共同会見で、「去年夏頃にホンダから、両社でモビリティの将来を検討しようという提案がされ、若手で構成されるメンバーでワークショップをスタートした。ホンダとしては特に、そこでの両社のメンバーの化学反応に大きな可能性を感じた」と語り、一方、ソニーグループの吉田憲一郎・会長兼社長は「昨年末にトップ同士で話す場があり、モビリティの変化と将来についての方向性を共有できると感じたことから、検討が加速し本日に至っている」と説明した。若手技術者のワークショップからわずか1年足らずでトップ同士が合意したのだ。
だが、ホンダとソニーはいずれも独創性が看板で、他社とは組まずに何でも自社でやる「孤高の企業」と呼ばれてきた。EV分野でもホンダはすでに「Honda e」シリーズを発売、ソニーも「VISION-S」という独自のEVを発表している。
「弊社とソニーさんは日頃から交流があったわけではありません。ホンダとしては昨年夏頃からの関係です」(ホンダ広報部)という。
両社を結びつけたのは、ホンダの創業者・本田宗一郎とソニーの創業者である井深大の技術者としての「理念」だ。経済ジャーナリスト・片山修氏が指摘する。
「ホンダもソニーも戦後、町工場からスタートした。本田宗一郎氏は小学校卒の叩き上げの技術者、井深大氏は早稲田大学理工学部卒のエンジニアです。日本には二番手の技術で安く高品質な製品をつくって市場を押さえる企業が多い中で、両社は飛び抜けて独創的な技術で、それぞれの分野で先進的な製品を出して成長してきた。その背景には、井深氏の『誰もやらないことをやれ』、本田氏の『真似をするな』という共通する理念がある。
しかし、現在は100年に1度といわれるEVの潮流の只中で、生き残りを図るには他社の協力を仰がなければならない。自社だけでどうにかなるレベルの変革ではない。孤高を貫いてきた両社は提携には慣れていないでしょうが、互いに創業の理念に立ち返ったときに、共通する価値観とスピリットがあると気づいたんじゃないでしょうか」