妻の年金を増やそう
今回の年金改正の内容は多岐にわたる。たとえば、受給開始を65歳より遅らせることで、毎月の受給額が増える「繰り下げ受給」のルール変更がある。改正前の制度では70歳までしか繰り下げられなかったが、それが75歳まで繰り下げ可能になる。1か月繰り下げるごとに受給額は0.7%増額されるため、75歳まで繰り下げれば84%も増えることになる。
ただし、前出・蒲島氏はこう注意を促す。
「新ルールが適用されるのは今年3月31日までに70歳に達していない人ですが、繰り下げで月毎の年金額が増えても、通算の受給総額で65歳受給開始を上回るには、長生きする必要があります。75歳まで繰り下げたら86歳11か月まで生きないと、65歳受給開始よりも多く受け取れない計算になる。84%増は魅力的ですが、慎重な判断が必要です」
60代前半で働きながら年金受給する際に、年金と給料の合計が一定額を超えると、年金が一部支給停止となる「在職老齢年金」の上限緩和も話題だが、恩恵を受けられる世代は限定的だ。前出・蒲島氏は、一連のルール変更のなかでは今年10月からの「厚生年金の適用拡大」を活用したいと指摘する。
「これまで、パートなどの短時間労働者が厚生年金に加入しなくてはならない条件として、週の労働時間が20時間以上、月額賃金8万8000円以上といったものに加えて、従業員501人以上の企業であることが定められていた。それが従業員101人以上の企業まで拡大される。アルバイトやパートをどんどん厚生年金に加入させる意図があります」
サラリーマンの妻で専業主婦であれば、保険料を払わず国民年金に加入できる「第3号被保険者」となるが、適用拡大が進むと多くのパート妻が保険料を払う「第2号被保険者」へと置き換えられていくことになる。
「当然、改正前と同じようにパートで働いていても、厚生年金に新たに加入しなくてはならない人が出てくる。それによって将来の年金は少し増えるものの、保険料が引かれて現在の手取り収入は減ってしまう。
対策としては、極端に短く働くか、逆にフルタイムに近い時間を働くかになるが、これを機に、“メインの収入は夫が担い、妻は補助的な収入”という考え方を改めるのは有力な選択肢です。妻の収入を思い切って増やして将来の夫婦の年金額を積み増していく。2人の収入をバランスよく増やせれば、在職老齢年金のカットを気にする心配もなくなります」(蒲島氏)
日本経済を取り巻く状況が大きく変わってきたなかで、対応は急務だ。
※週刊ポスト2022年4月8・15日号