アルツハイマー型認知症の進行抑制が期待される世界初の治療薬「アデュカヌマブ」。2021年に米国で承認され、日本でも“夢の治療薬”と大々的に報じられたが、その後、様々な課題が指摘された。この薬は“夢のまま”終わってしまうのか──。
「承認過程での反対意見によってアデュヘルム(商品名)の販売に大きな影響が出るとは想定していなかった」
3月16日、製薬メーカー・エーザイの内藤晴夫CEOはオンライン事業説明会でこう語った。その前日、同社は米バイオジェンとの提携契約の変更を発表していた。
2007年にバイオジェンが研究を始めたアデュカヌマブは、2017年にエーザイとの共同開発に移行した。以来、研究開発や臨床試験、宣伝などの費用をエーザイも拠出し、販売開始後は世界での利益(損益)を両社で分け合うことになっていた。
認知症薬事業を経営の柱に据えるエーザイにとっては乾坤一擲の新薬開発だった。昨年11月、内藤CEOは「アルツハイマー病治療の新たな1ページを開く、その花が開く春はそう遠くなく訪れるはずであると確信している」と強気のコメントをしていただけに痛手は大きい。
当初、エーザイは同薬の年間売上高を1000億円以上と見込んだが、2021年12月までの米国での販売額は約4億円にとどまったとされる。
契約見直しにより今後は開発や販売に関わることなく、バイオジェンの売り上げの2~8%のロイヤルティを受け取るだけになるという。事実上の“撤退”と報じられ、日本での販売は先が見通せなくなった。
アルツハイマー病専門医の新井平伊医師(アルツクリニック東京院長)が明かす。
「私は認知症の家族会などとも交流がありますが、期待する患者さんや家族の声はかなりありました。『米国に行ってでも使いたい』という患者さんもいます。これは一生の問題ですからね」