アデュカヌマブはアルツハイマー病の新薬で、“夢の治療薬”との呼び声が高かった。病気の進行に直接介入する初の「根本治療薬」として世界で期待されていた。
タンパク質「アミロイドβ」の脳内での蓄積が一因となり発症すると考えられているアルツハイマー病は、認知症全体の7割近くを占める。同薬はその原因物質アミロイドβを減少させることができるという。治験ではアミロイドβを6~7割減らし、認知機能の悪化を防ぐ効果があったとされる。
米国では「追加の臨床試験で薬の効果を見極める」との“条件付き”で2021年6月に承認された。日本でも早期承認が期待されたが、同12月に開かれた厚生労働省の専門部会で販売承認申請が認められず、「継続審議」となった。なぜ日本では承認されなかったのか。
1年間で「610万円」
同薬の治験に参加した認知症専門医の真鍋雄太教授(神奈川歯科大学高齢者内科)が解説する。
「米国の薬事審査では、日本を含む20か国で行なわれた2つの臨床試験の結果の違いについて議論になりましたが、製薬会社側の『いずれの試験でもアミロイドβが減っている』との主張が認められ、2回目の審査で“条件付き承認”となりました。ところがその後、欧州医薬品庁ではアデュカヌマブの有効性や安全性が明確に示されていないとして承認が見送られた。日本での審査は欧州に倣ったと見られます」
前出・新井医師も審査と同様の見解を示した。
「試験で確かめられたアルツハイマー病の予防効果は23%。この数字は統計学的には有意差があったとしても、臨床的には『弱い』と感じますね」
また同薬の販売価格は投与1回で約47万円、年間610万円がかかる。この価格はノーベル医学生理学賞を獲得しながら、その高額な薬価が議論を呼んだがんの治療薬「オプジーボ」よりも高い。
「一言で言ってしまえば、日本で承認されない理由の根本は、効果に対して薬の価格が高すぎることでしょう」(新井医師)