第1章 逃げろ!? マルサがやって来て同時多発捜索だ!(前半)
■えっ、コクゼイキョク? オレにいったいなんの用だ?
2008年10月9日、午前8時。動き始めた都心を見下ろす、六本木ヒルズレジデンス16階。ピンポーン──。
ふかふかのキングサイズベッドで朝寝を決め込んでいた僕は、レジデンスの入り口で鳴らされたインターホンの音で目覚めました。ベッドサイドの時計をチラッと確認し、呼び出し音なんておかまいなしに、また枕に顔をうずめてました。
事前に来客があるとわかっているとき以外は、インターホンに応答しないことにしているからです。宅配便の荷物ならフロントで預かってくれるので、わざわざ出る必要なんてないのです。
ピンポーン、ピンポーン──。
「だれだよ、しつこいなあ……」
ウトウトしながら文句を言っていると、今度はケータイが鳴り響きました。どいつもこいつもうるさいなあ。僕は仕方なくケータイを手に取りました。
「もしもし」
「社長ですか? すいません寝坊しちゃって……。ちょっと遅れそうです」
それだけ言ってプツッと電話を切ったのは、埼玉県内にある僕の会社で働く従業員。
「そんな用なら会社にかけてくれよ、もう」
僕は舌打ちしながら、仕方なく出社しているはずの妹に知らせようと、妹のケータイを呼び出しました。
「あっ、お兄ちゃん!?」
僕から連絡するのは別に珍しいことでもないのに、電話に出た妹はなぜか驚いた様子です。すぐに声を潜めて、こう尋ねました。
「お兄ちゃん、今どこにいるの?」
なんだか変だ。僕の直感がそう告げていました。
「どうかしたのか?」
「今、国税局の人たちがすごい人数で来たの。『社長いますか?』って」
妹の声はうわずって、心なしか震えていました。
「コクゼイキョク? なんの用だって言ってるの?」
「よくわかんないよ。今来たとこなんだもん」
すると、声を潜める妹の後ろで、男の声が聞こえてきました。
「その電話、だれからですか?」
ヤバイ! とっさにそう思った僕は、妹にこう命じて電話を切りました。
「オレからだって言うな! また後でかけるから」