政府・与党内で検討が進められていた年金生活者への「一律5000円給付」が、世論からの激しい批判を受けて、白紙に戻される方向だ。自民党の高市早苗・政調会長は「もうこの話はなくなった」と明言。その一方で、新年度の4月分から、年金の支給額は0.4%引き下げられる。やってくる年金減額時代にどう対応するか。今年4月からの年金大改正による新ルールを活用する方法も注目されているが、そこには思わぬ“落とし穴”も存在する。
そもそもなぜ年金支給額が引き下げられるのか。年金支給額は毎年、物価と賃金の変動に応じて改定される仕組みとなっている。現役世代の賃金が伸び悩んだこともあり、新年度から減額されることとなった。高齢化の進む日本では、年金受給世代を支える現役世代の負担軽減が急務となっており、今後も年金減額の流れはなかなか止まらないことが懸念されている。
そうしたなかで、注目を集めるのが今年4月からスタートする年金の新ルールだ。たとえば60~64歳が年金を受給しながら働く際、「月給+年金月額」が合計28万円を超えると、超過分の半額がカットされていた「在職老齢年金の支給停止」の基準が、65歳以上と同様に合計47万円まではカットされないように緩和される。この制度変更により、シニア世代の就労促進が期待されている。
今年の年金改正では他にも複数のルール変更があるが、“年金を増やせる手段”として注目されているのが、「繰り下げ受給の見直し」だ。大手紙経済部記者が言う。
「『繰り下げ受給』とは、本来は65歳からの年金受給開始を遅らせることで、割増し年金を受け取れる仕組みのことです。1か月遅らせるごとに月毎の受給額は0.7%増となる(受給開始は66歳以降)。これまでは最大で70歳まで受給開始を繰り下げられ、その場合の年金額は42%増。それが新制度のもとでは75歳まで繰り下げられることになり、最大限繰り下げると年金額が84%増となる。それゆえ、“年金が約2倍に増やせる”と注目を集めているのです」
稼げば稼ぐほど、メリットがなくなっていく
ただし、この繰り下げ受給には注意点もある。そもそも、受給開始を先延ばしにして65歳以降も年金なしで生活するためには、それ以外の安定収入が必要となる。しかし、給料の収入が多いと、今度は繰り下げ受給の恩恵を受けられない可能性が出てくるのだ。それは、前述の「在職老齢年金」が関係してくるからだ。ベテラン社会保険労務士がこう言う。
「65歳以降に厚生年金に加入して働く場合、『月給+年金月額』が合計47万円を超えると、超過分の半額の年金がカットされます。ポイントは、この在職老齢年金の仕組みでカット対象となる部分は、“繰り下げしても割増しを受けられない仕組み”になっていることです。繰り下げている間に一生懸命働いて稼ぐと、どんどん繰り下げのメリットがなくなるという現象が起きることがあるのです」