“長生きが幸せ”という常識は、過去のものになるのかもしれない。人生100年時代はおろか、医療の進歩によって近い将来に「人生120年時代」が到来──そんな予測をする専門家が登場し、メディアを賑わせている。ただ、そこに待つのは、決して幸せな未来というわけではなさそうだ。死ぬまで働き、家族に迷惑をかけながら生きる。そんな“死ねない地獄”をシミュレーションする。
60歳で定年を迎えた後は再雇用や転職で繋ぎ、65歳でリタイアして余生を送る──それが今までの“常識”だった。しかし、昨年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法では、「70歳までの定年引き上げ」「70歳までの継続雇用制度導入」など、70歳までの就業機会確保が企業への「努力義務」になった。
すでに人生100年時代が到来し、やがて訪れるとされる120年時代を生きる身としては、長く働けるのはありがたい話にも思えるが、そこには“過酷な現実”がある。人事ジャーナリストの溝上憲文氏が語る。
「厚労省の最新統計(2020年6月時点)によると、定年を延長した企業は20.9%、再雇用など『継続雇用制度』の企業は76.4%でした。301人以上の大企業に限定すると後者が86.9%を占めます。60歳頃にいったん退職し再雇用になると、給料は半分、年収340万~350万円に減るのが一般的です」
給料が下がるだけではなく、仕事内容や職場環境も激変する。
「給料を下げる分、会社側は同じ職場や配置転換などで現役世代の補助作業をさせることが多い。ホワイトカラーの管理職は一兵卒として隣の部署などに異動し、後輩である年下上司のもとで働くことになります。
人間関係は本人の問題ではありますが、管理職気分が抜け切らずに若手に指示やダメ出しをしたりして、周囲から白い目で見られるのはありがちな話です。これが例えば80歳ともなれば、さらに煙たがられるのは想像に難くない」(溝上氏)
昨年始まった70歳までの雇用の「努力義務」は、今後、段階的に「義務」へ変わると予想される。溝上氏は、さらにその後は「定年という概念がなくなる」と予測する。
「65歳以上の人口がピークを迎えるとされる20年後には、『定年制』自体がなくなるのではないでしょうか。世界はすでにエイジレスの流れにあり、将来の日本もそれに倣う可能性が高い」