私が誘われた事情はこうだ。彼女は親戚から期限付きの株主優待券をもらい、沖縄行きの航空券を2枚手に入れた。一緒に行きたい相手はいたけれど、都合が合わなくなった。で、「私、どうしても行きたいんだよね。すぐに行けそうなのは、あんたしかいないからさ」と言うわけ。
「でもな~」と口ごもると、Y子はガバッと財布を開き、彼女のアパートの畳の上に札を全部つかみ出して、「私の全財産の半分貸すから、これで行こうよ」と言って、3万なにがしかの現金を差し出したの。
これに加えて、彼女が立て替えている航空券代が2万なにがし。気がかりの3000円もある。私はY子に大借金を負うことになる。「う~ん」とうなりながら首をタテに振れないでいる私に彼女は、「今年中に働いて返してくれたらいいからさ」とトドメの言葉を浴びせた。
2人の男性からプロポーズされるなんて
そんないきさつで行った沖縄で、正確にいうと離島の座間味島で、私はプロポーズをされたの。しかも2人から。
1人は、泊まった民宿のおじさん。明日は本島に帰るという夜、私だけ海辺に誘われて、「あんたは帰るな。ここにいろ」と言われたのよ。イントネーションが標準語とは違うから何かの聞き違いかと思ったら、そうではなくて、「息子の嫁になってくれ」という話。3泊する間、漁師が本業のおじさんから海の話を私はたくさん聞かせてもらった。会話を交わしているうちに、私を民宿の女将の素養ありと見込んだのね。
「那覇で高校の教師をしている30才の息子は、おれが決めた人なら一緒になる。おれはあんたがいい」って、いま思えばおかしな話だけど、おじさんの離島言葉は、うかつなことを言えない真摯さで私に迫ってきた。
いまとなっては何と答えたのかうろ覚えだけど、「東京でやりたいことが何もできてない。東京から離れられない」というようなことを言ったと思う。おじさんはしばらく黙り込んで、真っ暗な海を見ていた。
その翌朝、おじさんは手押し車に私たちの荷物を載せて、船着場まで見送りに来てくれた。涙が止まらなかった。もう1人は6才年上の青年で、船で無人島に連れて行ってくれた人。その人は「自分の嫁に」と、帰京してからも何度も電話をくれた。