2019年に総務省が「老後資金として公的年金だけでは不充分。貯蓄が2000万円は必要」という内容の発表をしたことで、不安を抱える50代が急増した。この数字は、コロナ禍前の2017年の「家計調査報告」の数値をもとに算出されたものであり、最新の状況とは異なるが、それでもやはり老後のためにある程度の貯金は必要と考える人がほとんどだろう。
その一方で、貯金がゼロどころか多額の借金を抱えながらも、それをしのいで生活している高齢者もいる。そのリアルケースを見てみよう。
介護施設職員の佐藤佳代さん(仮名・73才)は、65才のときに6才年上の夫が亡くなり、その翌年、兄も急逝。兄には子供がいなかったため、約700万円の遺産を、行政書士にすすめられるまま相続したという。ところが──。
「手続きが終わってから、兄には3000万円近い借金があることがわかったんです。700万円を相続すると3000万円の返済義務も発生。これから穏やかな老後を送ろうと思っていた矢先にすっからかんになりました」(佐藤さん・以下同)
子供たちにも相談したが、「これまで何でもおやじ任せにしていたからそうなるんだ。自業自得」と一蹴されてしまった。頼りだった夫はいない、子供にも相談できない──。
「66才にして初めて、自立しなければ生きていけない窮地に立たされました」
そこで区役所に行き、借金整理に詳しい税理士を紹介してもらった。そして、夫が残した貯金1500万円と、自宅の一部を売り、借金を返済した。
「築30年の木造住宅は売らずに済みましたが、年約10万円の固定資産税がかかりますし、古いのでシロアリや雨漏りの被害も……。修繕費が年間約14万円かかります。それで、着物や皿などをリサイクルショップで売りました。夫の遺品の時計を売って固定資産税を払ったこともありました」