日本には新宗教が拠点を置く「宗教都市」が点在するが、実態を知る者は少ない。フリーライターの國友公司氏が現地を歩いた。
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2か月に1回のペースで特急「踊り子」に乗車する私は、自他共に認める熱海好きである。熱海駅に到着するとまずは商店街でさつま揚げを立ち食いし、MOA美術館でしばし国宝を眺め、伊藤園ホテルへと向かう。そんなことを数年間繰り返しているわけだが、今回の取材に至るまで、このMOA美術館が世界救世教という新宗教の運営下にあり、「地上天国」と呼ばれていることなどまったく知らなかった。
これまで倉庫か何かかと思っていた美術館の真横に位置する建物が世界救世教の本部のようだ。中に入り施設を見学していると、「初めてでしたらご案内致します」と職員の女性に後ろから肩を叩かれた。美術館は連日の大盛況だが、その観光客が本部に流れてくることは稀なのだという。
その一方、熱海市民においては信者であるなしにかかわらず、本部を訪れる機会は多いそうだ。3階にある拝殿は3000人を収容できるほどの広さを持つ。
「熱海市は山と海に囲まれており、坂道も多く、これほど広い空間(拝殿)がほかにありません。そのため、熱海市が主催する映画祭やイベントはここで行なわれることが多いのです。美術館の中にある能楽堂(501席)は、熱海市の成人式にも使われています」
「荒れる成人式」と揶揄されることも多いが、熱海市では毎年粛々と式が進む。新成人たちもさすがに能楽堂で大騒ぎしようという気は起きないようだ。
「何か自分の中に抱えているものはありますか? 私の横で一緒に祈ってみてください」
職員はそう言うと、祭壇に向かって日本神道における神を祭り、神に祈る際に用いる天津祝詞というものを唱え始めた。
「カムロギカムロミノミコトモチテ……カシコミカシコミ……カンナガラタマチハエマセ……」
また、世界救世教の大きな特徴のひとつに「手かざし」による浄霊があるが、頼めば職員はこの浄霊までしてくれるという。
「私たちの浄霊は自ら気を発するのではなく、宇宙からの光を自分の体を通じて相手に渡すだけなので消耗することがないのです。つまり、私と國友さんが一緒に楽になれるのです。どんな宗教も肌で感じることが大切。國友さんのしていることは素晴らしいことです」