ロシアによるウクライナ侵攻は未だ決着の糸口が見えず、世界経済にも大きな影響を与えている。果たしてこのウクライナ問題はどう着地するのか、そして世界経済はどうなっていくのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、100年前の世界情勢との類似点も振り返りながら考察する。
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ロシアのウクライナ侵攻はますます混迷の度を深めている。5月9日の対独戦勝記念日の演説でプーチン大統領は武力行使をウクライナでの「ナチス・ドイツの復活」を阻止するための「やむを得ない、唯一の正しい決断だった」などと正当化したが、「ナチスの復活」は事実ではなく、軍事侵攻の大義名分にはならない。それどころか、プーチン大統領こそが一方的にポーランド侵攻を断行したヒトラーと同様の狂気的な侵略・殺戮を繰り広げている。
果たして、これからロシアはどうするのか? 戦術核や化学兵器などでウクライナ軍の拠点を壊滅させ、一方的に勝利宣言するかもしれないが、プーチン大統領がいる限りロシアに対する経済制裁は続く。何をもって戦争の勝利・終結とするのか、着地点が全く見えない状況になっている。
世界大戦を招いた100年前の教訓
明らかなのは、世界経済が今後ますます混乱し、物価高の進行で疲弊していくことだ。第二次世界大戦以降の経済至上主義やボーダレス経済は戦争抑止に意味がなかったことが明らかになったという議論もあるが、それは違う。
ウクライナ戦争は従来の国民国家の枠組みが崩れて人、モノ、カネ、企業、情報が軽々と国境を飛び越えるボーダレス・ワールドになっていることをプーチン大統領が理解していなかったがゆえに起きたものであり、むしろ、いかに今の世界がボーダレスな「連結経済」になっているかということを改めて明白にした。
ロシアとウクライナは欧州向けの天然ガスや原油に加え、小麦、トウモロコシ、ヒマワリ油などの輸出量で世界の大きなシェアを占めている。たとえば、小麦はロシアが1位、ウクライナが6位、トウモロコシはロシアが8位、ウクライナが4位だ。トウモロコシは人間の食料のほか家畜の飼料や燃料などにも使われ、輸入量は日本が世界一である。