また、食用油やスキンケアオイルなどに利用されているヒマワリ油は、生産量も輸出量もウクライナが世界1位、ロシアが同2位だ。
今回の戦争の影響でウクライナとロシアからヒマワリ油が供給されなくなったため、インドネシアとマレーシアのパーム油が高騰しているが、パーム油は加工食品のほか、食器・洗濯・掃除用の洗剤や石鹸・シャンプーなどに欠かせない。
このように見てくると、早期に停戦協議がまとまらなければ、天然ガスと原油、穀物、植物油脂の不足によって世界的な物価上昇が加速することは避けられないことがわかる。ウクライナの国土荒廃やロシアに対する経済制裁は一過性の問題ではなく、これから長期にわたって世界経済に悪影響を及ぼすのだ。
すでに第三次世界大戦が始まっているという見方もある。だが、そう判断する前に改めて今の世界情勢を俯瞰してみるべきだと思う。
私自身、2021年正月に本連載で、100年前に「スペイン風邪」が猛威を振るい、その後に欧米でも日本でも物価が高騰して1929年のアメリカ株バブル崩壊に端を発した世界恐慌、そして第二次世界大戦へつながっていったという歴史のアナロジー(類推)を指摘した。その時点では今日のロシアのウクライナ侵攻までは予想できなかったので、パンデミックやインフレ加速、株バブル崩壊などの類似から「いつか来た道」への警鐘を鳴らしたが、まさに現在、世界は100年前と同じ轍を踏みかねない状況になっている。
いま人類が問われているのは、世界大戦や世界恐慌を繰り返さない知恵があるかどうか、である。では、どうすればよいのか? もはや経済のボーダレス化は不可避であり、不可逆的である。となれば、我々は国民国家の枠組みを超えていっそう密接に経済でつながり、民族・宗教の違いや領土をめぐる争いのない時代へと向かうべきだろう。
「歴史は繰り返す」と言われるが、「賢者は歴史に学ぶ」とも言われる。賢者ではないプーチン大統領が何をしようと、決して世界大戦の過ちを繰り返さないように“その他世界”の市民たちが頑強なスクラムを組んで立ち向かう必要がある。ロシアのウクライナ侵攻は対岸の火事ではないのだ。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊『経済参謀 日本人の給料を上げる最後の処方箋』(小学館刊)等、著書多数。
※週刊ポスト2022年6月3日号