物価上昇が顕著なアメリカでは、賃上げも加速している。この流れの背景には「構造的な変化」があると分析するのは経営コンサルタントの大前研一氏だ。大前氏が「第四の波」と呼ぶ、その社会構造の変化について解説する。
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アメリカの労働市場に異変が起きている。アマゾンの物流倉庫、スターバックスやアップルの店舗などで、新たに労働組合を結成する動きが広がっているのだ。
賃上げも加速している。アマゾンは昨年9月に物流部門の最低時給を平均18ドル(約2300円)超に引き上げたが、労組側は30ドル(約3900円)への引き上げを要求している。スターバックスも昨年10月、勤続2年以上は最大5%、5年以上は同10%賃上げし、従業員の平均時給が約17ドル(約2200円)になると発表した。アップルの労組結成を目指すグループは、時給を最低でも30ドル(約3900円)にするよう求めていると報じられた。時給3900円で8時間・20日間働いたら、月収は62万4000円である。日本で言えば、部課長クラスの給料だ。
その背景にあるのは急速に進んでいる物価高と人手不足である。新型コロナウイルス禍が下火になったことによる景気回復やロシアのウクライナ侵攻に伴い、アメリカの4月の消費者物価指数は前年同月に比べて8.3%上昇し、歴史的な物価高が続いている。4月の失業率は3.6%で、完全雇用(3%程度)に近づいている。このため、労働市場で優秀な人材の争奪戦が激しくなり、アマゾンは従業員の基本給の上限をこれまでの年間16万ドル(約2080万円)から、35万ドル(約4550万円)に引き上げると発表した。
こうした異変は、単に雇用環境による影響ではない。より構造的な変化という意味では、私が提言している「第四の波」が進展していることと関係がある。
「第四の波」とは、本連載(『週刊ポスト』2022年3月4日号、3月11日号)で詳述したように、「サイバー&AI革命」が世の中にもたらす変化である。アメリカの未来学者で友人だったアルビン・トフラー氏が1980年に上梓したベストセラー『第三の波』をヒントにしたものだ。
トフラー氏は「第一の波」の「農業革命」によって農耕社会、「第二の波」の「産業革命」で工業化社会になったのに続き、次は「第三の波」の「情報革命」が起きて脱工業化社会になると主張し、その通りになった。