人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第37回は、中国の「ゼロコロナ」政策が及ぼす世界的影響について。
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新型コロナウイルスの感染拡大から2年余りが過ぎ、欧米諸国に続いて日本でもマスク着用の徹底を緩和する議論も進んでおり、コロナと共生しながら経済回復を目指す「ウィズ・コロナ」の方針が進んでいる。そうしたなか中国では、いまもコロナの感染拡大を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策に邁進している。
なかでも、人口2500万人の巨大都市・上海では、3月28日から2か月以上ロックダウン(都市封鎖)が続き、6月から実質的に解除されたものの、市民生活はもちろん、世界経済にも大きな影響を及ぼそうとしている。
なぜ、中国の共産党政権はここまで「ゼロコロナ」にこだわるのか。それは、これまで武漢をはじめ国内の感染拡大をロックダウンによって封じ込めてきた共産党政権の自負があるからだろう。“ロックダウンでコロナはコントロールできる”という思い込みから、市民生活に犠牲を強いる強硬策に突き進んでいるのだ。
しかし、これこそ行動経済学でいう「コントロール・イリュージョン」そのものではないだろうか。重症化しにくい反面、感染力の強いオミクロン株の感染者を“ゼロ”にすることは難しく、まして中国製ワクチンはオミクロン株にはあまり効かないとも指摘される。そうしたなか、「ゼロコロナ」を目指すこと自体が“幻想(イリュージョン)”に近い。ここまで来ると、共産党政権は「コントロール・イリュージョン」にとらわれているとしか思えない。
なにより工業都市である上海は物流の中心であり、世界最大級の港湾都市。その都市機能がこれだけ長い間ストップされれば、その影響は国内外に甚大な影響を及ぼすことは間違いない。
中国の1~3月期のGDP(国内総生産)成長率は前年同月比4.8%にとどまり、4~6月期は悪化する可能性が極めて高い。目標に掲げている今年の成長率5.5%の達成も難しい状況ではないだろうか。