リタイア後の夫婦関係を考えるときに、「妻と一緒に何かをしたい」と望む人は多いだろう。だが、作家・書誌学者で『定年後の作法』の著書がある林望氏は「それを意識しすぎてもうまくいかない」と注意を促す。
「定年後は一日中、家で顔を合わせることになるわけで、それだけで“濃密すぎる接触”となり、様々なバッティングが生じる。そもそも夫婦は別々の個人であり、『一心同体』ではなく『二心別体』です。だから、同じことを考えなくていいし、同じ趣味を持つ必要などないのです。同じことを喜んだり悲しんだりすることなどあり得ないと考えるのが賢明です」
こうした見方は専門家に共通する。夫婦問題評論家の池内ひろ美氏も「定年後に同じ趣味を見つけようと言い出す夫は多いが、これはよくない」と断じる。
「現役中から夫婦で一緒にやっている趣味ならいいと思うのですが、夫が後から妻と同じ趣味を始めるのは最悪。その趣味の世界では妻が“先輩”になり、夫はそれが面白くなくて関係がこじれていきます。しかも、妻は趣味の世界ですでに人間関係が出来上がっているから、そこに入ってきてほしくない。妻の人間関係に立ち入らないということは肝に銘じたほうがいいでしょう」
また、家にいる時間が増える以上は、「家事」についても相応の負担が必要になる。林氏が言う。
「自立することが大切です。夫婦間においては、互いに“やってもらおう”ではなく、“やってあげよう”と思うことが重要。とにかく、料理や洗濯といった家事を妻に任せっきりにしない。それが一丁目一番地だと思います。
我々の世代は夫婦の役割分担がしみついている人が多いので、“どうせ料理はできない”と大威張りの男性が多い。定年後は威張らないという意識を徹底したほうがよい」