三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、「源頼朝への謀反を装った仇討ち」として処理された「曾我兄弟の仇討ち」事件。しかし、歴史作家の島崎晋氏は、「史実は仇討ちを利用した謀反だった可能性が高い」と指摘する。その背景には、鎌倉の御家人たちにくすぶっていた不満があるという。島崎氏が綴る。
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NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第24回(6月19日放送)において、新たに2人の「ロス」が生じた。源頼朝(大泉洋)の長女の大姫(南沙良)と異母弟の源範頼(迫田孝也)である。
大姫が病死なのに対し、範頼は失脚のうえでの暗殺。史実の上では、その最期と死因は伝えられていないのだが、失脚させられたことは間違いない。
源頼朝の長男(のちの頼家)がまだ元服前のこの時期、頼朝に不測の自体が生じた場合、中継ぎの後継者としてもっとも有力なのが範頼だった。そうであれば、頼朝を殺め、範頼を擁立する計画があったとしても、別段驚くにはあたらない。『鎌倉殿の13人』の5月放送分でもたびたび描かれたように、鎌倉の御家人たちの間には、頼朝に対する不満がくすぶり続けていた。
いったい何が不満なのか。端的に言えば、それはただ働きの多さと、御家人間に生じた格差の大きさにあったと考えられる。
東国の武士たちが平家を見限り、源頼朝に期待したのは、自分たちの代表として朝廷と交渉し、有利な条件を取り付けることにあった。頼朝と主従関係を結んだ東国武士=御家人たちは、頼朝と互恵関係にあったのである。
この互恵関係は「御恩」と「奉公」という言葉で表わされる。頼朝が御家人たちに施す「御恩」は「本領安堵」「新恩給与」「官位推挙」の3点からなり、一方の御家人たちに義務付けられた「奉公」も「軍役」「番役」「関東御公事」の同じく3点からなる。
御家人たちに経済的な利潤をもたらすものは所領である。先祖伝来の所領への権利を保障する「本領安堵」は是が非でも欲しく、分割相続が慣例化している状況では「新恩給与」も一族の存続を図るのに欠かせない要件だった。「官位推挙」は経済的な利潤に直結しないが、名誉欲を満たすためにも、あるに越したことはなかった。