女性の非正規雇用者を中心に、日本の賃金がここ30年間も上がっていないのは、まさにこうした「偏った相場観」が一因だ。業種や業務内容、年齢のイメージだけで「このくらいの給料が妥当だろう」と固定されているのだ。明治大学教授で経済学者の飯田泰之さんが説明する。
「長いデフレの中で固定していったので、これほど物価が上がっているのに、例えば“この仕事で25才なら20万円くらいでいいだろう”などと、給与だけは当時のあいまいなイメージをひきずっているのです。打開するには“でも、同じ仕事と年齢でも、公営施設では25万円もらっている”と、高い方を基準にすべきです。“公務員はズルい”などと足を引っ張ろうとするような嫉妬心が強いのも、日本人の給与が上がらない一因でしょう。お金をばらまくのではなく、いまの低すぎる相場観を是正し、仕事や賃金に対するイメージを刷新する目的での賃上げが必要です」
経済評論家の加谷珪一さんは、日本企業が充分に利益を生み出せる体質にならなければいけないと話す。
「企業が儲かっていれば、優秀な人材を確保するために、必ず賃金は上がります。むりやり最低賃金の金額だけを上げても意味がありません。欧米では、利益を上げられない経営者が辞任することに社会的合意があります。日本では、債務超過で会社をボロボロにするような経営者を国が税金で助けている。これでは企業の業績は上がりません」
欧米では、経営者や管理職に女性を登用する数値目標があるのが当たり前だ。しかし、日本はそうではない。
「女性や若者、外国人など、外からやってきたというだけで優秀な人材の機会を奪うような、古い男性社会からの脱却も、日本企業の体質を変え、賃金の上昇につながるはずです」(加谷さん)
竹信さんは、スーパーマーケットのレジ打ちなど、女性が多く軽視されがちな仕事こそ、日本経済になくてはならない基幹労働力だと語る。
「管理職や政治家など、権力のある人がレジに立たされても、機械の使い方すらわからないはずです。レジ打ちも事務職も“誰にでもできる仕事”なんかじゃない。“どうせ何も変わらないわ”とあきらめるのではなく、その仕事に従事している本人がまず、自分の仕事の重要性や尊さを自覚すること。自分が持っている権利や意思表示の手立てを知ることが、現状を変える第一歩です」
声を上げようとする。これこそ、国政に参加する意義であり、権利だ。