アメリカのバイデン大統領は、日本よりも先に韓国へ訪問した。28年ぶりという異例のケースではあるが、ここから読み取れるのは、日本企業と韓国企業への期待度の差かもしれない──。経営コンサルタントの大前研一氏が考察する。
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韓国で新たな“風”が吹き始めている。5月に就任した尹錫悦大統領の人気が政治刷新への期待で上昇し、6月1日に行なわれた統一地方選挙でも、尹政権を支える与党「国民の力」が圧勝したのである。
経済も好調を持続している。IMF(国際通貨基金)によると、2021年の成長率は4.02%で日本の1.62%(今年4月時点の推計)を大きく上回り、1981年から40年間、韓国が「通貨危機」に見舞われた1998年を除いて日本を凌駕しているのだ。
それを象徴する“事件”が、バイデン大統領の韓国・日本歴訪だ。バイデン大統領はまず韓国、次に日本を訪れたが、アメリカ大統領が日本より先に韓国を訪問するのは28年ぶりという異例のことだったのである。
その理由については「親米的な尹大統領の就任を祝うため」「オーストラリアのアンソニー・アルバニージー新首相がクアッド(日米豪印の連携枠組み)の首脳会議に出席できるようにするため」など様々な見立てがあったが、旅程上は日本が先でもおかしくなかった。
そもそも、外交では最初に訪れる国を最も重視しているに決まっている。ホワイトハウスのサキ報道官は訪問の順序について「あまり深く考えないでほしい」と言葉を濁したが、今回の歴訪でバイデン大統領が日本よりも韓国に重きを置いたのは間違いない。
なぜか? バイデン大統領の韓国でのスケジュールを見れば、理由は明らかだ。バイデン大統領は到着後、その足でサムスン電子の半導体工場に向かい、尹大統領や同社の李在鎔副会長と会った。その後も毎日、韓国の企業経営者と面会し、最終日には現代(ヒョンデ)自動車グループの鄭義宣会長と単独会談を行なった。つまり、訪韓の大きな目的は韓国企業の対米投資拡大を要請することだったのだ。
実際、サムスングループは今後5年間で(つまり尹大統領の任期中に)設備投資や研究開発に450兆ウォン(約47兆円)もの巨額投資をすると発表した。その一部は半導体のファウンドリー(受託生産)の新工場としてアメリカに向かうだろう。今年11月の中間選挙対策で雇用を増やすため、世界シェア2位のサムスンを訪れたのである。