「疲労」と「疲労感」を意識する
ここで、「疲労とは何か」という基本的な疑問に立ち返ってみよう。
「『日本疲労学会』による疲労の定義をわかりやすくいうと、“過度に体を動かしたり、頭を使ったりすることで『休みたい』と感じ、活動能力が下がる状態”です。どんな人でも、日常生活を送るうえで、ストレスからの疲労は生じます。そのストレスを押し返す体力や精神力は、成長とともについてきて、やがて心身が強くなっていくものです。ところが、これを押し返すことができないと、疲労状態になっていきます」
“疲労”には次の3段階があるのをご存じだろうか。それは、「急性疲労」「亜急性疲労」「慢性疲労」だ。
「最初の『急性疲労』は、1日眠れば疲労が取れる程度のもので、何の問題もありません。しかし、疲れが蓄積すると、どんなに寝ても回復が追いつかなくなります。そして、重度の『慢性疲労』になると、日常生活を送ることもままならなくなり、『慢性疲労症候群』という疾病を生じることもあります」
日常に支障をきたすほどの疲れを抱えている人は、専門のクリニックや内科で受診を。また、「疲労」と「疲労感」の違いも理解すべきだ。
「歩きすぎなど、現実的に体が動かなくなるのが『疲労』で、その疲れを自覚するのが『疲労感』です。健康なかたは、この『疲労』と『疲労感』を同時に感じていて、どちらかが減退すれば、もう一方も止まります。
たとえば野生動物は、走りすぎたら動くことをやめ、休息する。『疲労』と『疲労感』が一致しているのです。しかし、人間は脳が発達してしまったため、“使命感”や“モチベーション”という感情で疲労感を隠し、疲れていても動けてしまう。ただ、このまま走り続けるのは危険です。体が疲れたり、疲れを感じたら、意識的に休むべきです」
では、疲労はどうやって起こるのだろうか?
「疲労のもととなるのは『ストレッサー』と呼ばれる外的刺激。これを受けることで肉体的、精神的にストレスがかかり、疲労が蓄積します。この蓄積が続くと、自律神経が乱れ、過緊張(リラックスできずに常に興奮している状態)になります。さらに進むと神経系、内分泌系、免疫系に変調をきたし、疾病に至るので、自律神経の乱れの段階で休養を取ることが望ましいです」
暑さもストレッサーの1つなので、夏はさらなる疲労にさらされることになる。どうすれば、元気に夏を過ごせるのか。そのためには、次回紹介する「理想の休養サイクル」を知ることが大切だ。
(第2回につづく)
【プロフィール】
片野秀樹さん/日本リカバリー協会代表理事、理化学研究所客員研究員。「攻めの休養」の重要性について啓発・教育活動を実践。編著に『休養学基礎 疲労を防ぐ!健康指導に活かす』(メディカ出版)がある。
奥村歩さん/脳神経外科医。おくむらメモリークリニック院長。「もの忘れ外来」にて延べ10万人以上の患者を診断。『「朝ドラ」を観なくなった人は、なぜ認知症になりやすいのか?』(幻冬舎)ほか著書多数。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2022年8月11日号