検索履歴や閲覧履歴など、あらゆるネット上の行動はビッグデータとして蓄積されている。そのビッグデータを分析すれば、その人のすべてがわかると言っても過言ではない。
慶應義塾大学大学院法務研究科教授の山本龍彦さんによれば、SNS上の文言から精神状態や政治的な傾向を推し量ることができるほか、Apple Watchなどで計測できる脈拍からは、健康状態だけでなくそのときの感情まで分析が可能だという。AIには、私たちの過去や人格、心まで簡単に覗き見て、支配することができるのだ。
歴史を遡れば、ビッグデータは常に国家に悪用されてきた。ナチス・ドイツは、IBMが人口調査に用いていたパンチカードの個人情報を使ってユダヤ人を識別、監視、捕獲、虐殺していたという。
こうした背景もあって、特にヨーロッパでは、ビッグデータの利用に慎重だ。EUでは、自分のビッグデータが他者の手に渡らないようにすることを「情報自己決定権」といい、基本的人権の1つとして考えられており、企業の規制やデータ保護などを強力に推し進めている。
一方、日本では個人データの保護は人権ではなく、あくまでも企業のセキュリティー問題として考えられているため、本質的な議論自体、なされていない。
「日本人は、個人情報が利用されている現状をただ“気持ち悪い”と感じるだけ。そうではなく“人権が侵害されている”と考えなければならない」(山本さん)
例えば、通院歴や遺伝的な病気のリスクといったデータは、医療機関に渡れば、適切な治療を受けるのに役立つ。しかし、保険会社に渡ったら、保険料や加入の可否にかかわるだろう。ビッグデータは、使われ方次第で、命を守ることも、人を殺すこともできる。