相続対策を考えるなら「よくトラブルになるパターン」を知っておくとよい。自分の家族が該当するなら、先んじて対策が取れるからだ。
『トラブルの芽を摘む相続対策』(近代セールス社)などの著書がある、吉澤相続事務所代表の吉澤諭氏が語る。
「家族が分裂してしまうような“争続”となるケースをいくつも見てきました。100人いれば100通りのトラブルがあるとも言えるので、なかなか単純なパターンに落とし込むのは難しいが、親の生前に家族でコミュニケーションが取れている家族はトラブルになりにくい。大まかに“もめやすいパターン”を把握し、親子で考えを共有していくのが大切でしょう」
では、トラブルになりやすいのはどんなパターンなのか。
まず想定されるのが、長男だけが親と同居しているなど、きょうだいの間で親との関係の密度に差があるケースだ。
高齢で独り身の父と長男家族が同居し、次男は離れて暮らしている。父が亡くなった後、その預金通帳を見た次男が、「なんでこんなに減っているんだ」――そんなふうにトラブルになるのだ。
「長男の目線で言えば、介護のために必要な出費を親の預金で賄っていただけなのに、次男の目線ではこれまで預金がどう使われてきたかわからない。目線が180度違うために、疑念が生じ、トラブルになるのです。長男が実際に使い込んでいることもあれば、次男が濡れ衣を着せて問いただしているだけのこともある。いずれの場合も、両者の関係はこじれてしまいます」(吉澤氏)
こうした争いを防ぐには、資産の管理方法の見直しを提案することがポイントになる。
「お互い疑いが生じることのないようにするためには、同居している子供の側が、介護にどれだけの費用がかかったかを家計簿などに記録するのがよいでしょう。親の預金を引き出した際は、通帳に“養護施設管理費”などと用途を書き込んでおく。介護のために使った領収書などは、ノートに貼るなど透明性を保つようにしておくことが肝要です」(吉澤氏)
子供の側から親に預金額を聞くのが憚られる場合は、税理士などの専門家を介すのも選択肢のひとつだ。「親が元気なうち、認知症を発症する前に済ませておく必要があります」と吉澤氏は強調する。
同居している長男家族のほうが介護負担は重いので、遺産分割が均等だと不満が出る可能性がある。そうした場合に備えて、長男やその妻に生前贈与などをして補う方法もあるが、その際も慎重な判断が必要だ。偏った「生前贈与」がトラブルを招くこともあるからだ。