家族への思いを「付言事項」に
必要な形式さえ守っていれば、難しく考える必要はない。家族仲がとてもいい家庭などは、相続のためというより、卒業証書のような感覚で遺言書をつくる人もいるという。
その際、家族への思いを「付言事項」として書き残す。公正証書遺言だと、付言事項が長くなればなるほど費用もかかるが、自筆証書遺言なら、費用を気にせず好きなだけ書くことができる。ただし、付言事項にも注意は必要だ。
「家族への感謝の気持ちなど、喜ばれるものならいいのですが、生前の恨みつらみなど、残された人がカチンとくるような内容はご法度です。付言事項に書くべきなのは、“介護をしてくれた長女に多く渡したい”など、遺言書本文に書いた遺産分割の『分割理由』です。合理的な判断のもとに残された遺言だとわかれば、紛争を防ぐことにつながります。
また“生まれつき障害がある次男が生活に困らないようマンションを買ってやった”といった場合、相続時に『特別受益(相続財産の前渡し)』と見なされて持ち戻しの対象になり、後から相続税を課せられることがあります。これを防ぐためには、付言事項に持ち戻し免除の意思を明確に示しておくことです」
遺言書に遺留分を無視した配分があると、いくら付言事項で“きょうだい仲よく”などと書いても、余計に揉めるだけ。付言事項はあくまでも「メッセージ」と考え、不備のない遺言書をつくることを優先すべきだ。
そして、医師による「認知症ではない」という診断書があれば万全。だが、その証明は難しいため、自筆証書遺言は相続時に否認されることも少なくない。一方、公正証書遺言であれば、公証人による意思確認のもと作成されるため、その心配はない。
「遺言書の内容に不満を持つ相続人が“この遺言書は、認知症を発症してから書いたに違いない”と主張し、無効にするための裁判を起こすこともあります。中には“これは本人が書いたものではない”と言い出し、筆跡鑑定までしようとする人もいるほどです」(曽根さん)