NTTグループは2022年7月より、日本全国どこからでもリモートワークで働ける「リモートスタンダード制度」を導入した。この制度について、経営コンサルタントの大前研一氏は「地方自治体にとっても優秀な人材を呼び込むチャンス」と評価する。NTTの働き方改革が地方創生にどう繋がるのか、大前氏が解説する。
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NTT(日本電信電話株式会社)グループが、リモートワークを基本とする新たな働き方を7月から導入し、マスコミやSNSなどで話題になっている。
その理由は、国内の主要グループ会社の全社員33万3850名(2022年3月31日現在)が、日本全国どこからでもリモートワークによって、転勤や単身赴任を伴わない働き方が可能になるからだ(制度開始当初は主要会社本体社員の5割程度が対象と想定)。
勤務場所は「社員の自宅」で、必ずしも会社への通勤圏に居住する必要はなく、出社する場合は「出張扱い」で交通費・宿泊費が支給される。GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)など海外のIT大手に流出しがちな若手人材を引き留める狙いがあるとも報じられている。
報道から1か月以上が経ち、その後の導入状況についての続報はほとんど目にしないが、これは実に興奮するニュースだ。なぜか? 全国の地方自治体にとって、優秀な人材を呼び込む大きなチャンスだからである。
33万人余の5割程度ということは、約17万人だ。その人たちが全国1718市町村に散らばったら、単純計算で平均100人が各市町村に住むことになる。地方自治体の多くは人材不足に悩んでいるので、そこにITやデジタル技術に習熟したNTT社員が移住・定住するとなれば、極めて大きなインパクトがある。
もし私が地方自治体の首長だったら、NTT社員に自分の市町村へ来てもらうため、住宅手当や配偶者の仕事の斡旋、子供の転校に対する配慮など、ありとあらゆる優遇措置・制度を導入する。
その代わり、NTT社員には就業後や休日に、たとえば2時間ぐらい町おこしや地域のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進などについて地元の人たちとディスカッションを行ない、地域社会に貢献してもらうのだ。
今回のNTTの新制度の場合、補助金や税制の優遇措置を目当てに本社機能を東京から兵庫県・淡路島に移転したという批判もある人材派遣大手のパソナグループとは、わけが違う。
優秀なNTTの若手社員が移住して地元の行政にも協力するとなれば、それは個人のライフスタイルにとどまらず、その地方自治体にとって活性化の自発的エンジンになり得ると思う。
今のところ、地方自治体からNTTへ「うちに来てください」という申し出が殺到しているというニュースも寡聞にして知らないが、これは実に不思議である。もし、私が地方自治体の首長だったら、NTTの人材を引き寄せるための優遇策を大々的に発表するだろう。