インド洋に浮かぶ島国・スリランカ。仏教国として知られるが、1980年代には多数派シンハラ人とタミル人の対立が激化し、内戦に発展。26年も続いた内戦は2009年に終結し、その後は強権的な大統領一族による支配の下、大幅な経済成長を遂げた。そのスリランカが、先日、「国家破産」を宣言。なぜスリランカは破産したのか。今後、スリランカを待ち受ける未来について、歴史作家の島崎晋氏が世界史上の事例から考察する。
* * *
群衆が大統領公邸に雪崩込み、中庭のプールに飛び込んで涼を取る人びとまで出現してカオス状態に──。7月9日、世界中に拡散された映像は、多くの独裁権力者に対し、「明日は我が身」と思わせたであろう衝撃的なものだった。
スリランカのウィクラマシンハ首相(現大統領)が議会演説で、国家破産を宣言したのはそれより4日前、7月5日のこと。なぜ、スリランカは「国家破産」したのか。
この点について、「崩壊は必然だった」とする翻訳記事を配信したのは『ニューズウィーク日本版』(7月22日付)だ。米誌『フォーリン・ポリシー』初出のこの記事のタイトルは、「国民を『こじき』にした一族支配、行き過ぎた仏教ナショナリズム」だった。
同記事は、経済破綻の直接的な要因として、「タミル・イーラムの虎」(少数派タミル人ヒンドゥー教徒の武装組織)との内戦再開につながりかねない連続爆弾テロと、パンデミックにより観光業が深刻な打撃を被ったこと、および海外へ出稼ぎに赴いた労働者からの送金が激減したことにあるとする。一方、遠因というか根本的な要因として挙げているのが、「特定の民族(あるいは特定の個人)だけが潤う政治システム」で、それが「スリランカの未来を窒息させた」と断言する。
スリランカでは、7月、国外逃亡の果てに辞任したラジャパクサ前大統領の一族による支配が10年以上続いていた。一族による国家の私物化は限度を知らず、多数派シンハラ人仏教徒の農民層や都市部の中間層までもが物不足に喘ぎ、日々の食事にさえ困るようになった。もはやラジャパクサ一族に対する熱狂的な支持は完全に消え去り、その辞任を求める市民のデモは、3か月以上に及んだという。
他にも、「一帯一路」政策を推し進める中国からの借り入れでインフラ投資を続けてきた結果、債務が膨らんで国家財政が悪化していったという見方もある。
過去には、スリランカ同様に「破産宣言」をした国家の例は数多い。では、「破産」した国家にはどんな未来が待ち受けているのか。時代背景や事情により異なるが、ここでは参考として、まず世界史上の例として16世紀のスペイン王国と、19世紀のオスマン帝国を挙げたい。