『令和3年の犯罪情勢』(警察庁)によれば、わが国の刑法犯の認知件数は、平成15年以降、一貫して減少傾向にある。新型コロナウイルスが蔓延し始めた令和2年に前年比マイナス17.9%となり、令和3年は56万8104件と戦後最少を更新した。
統計上、コロナ禍で刑法犯認知件数が戦後最少レベルまで減少したわけだが、果たして実態はどうなのか? 犯罪学者で立正大学文学部社会学科教授の小宮信夫さんはこう語る。
「警察発表は認知件数を基にした統計ですが、そもそも私は認知件数というものをあまり信用していません。
というのも、認知件数は“被害届が出された数”だからです。認知に至るまでには、被害者が警察に通報し、警察がその事案を書類に記入する必要がありますから、実際のところ、警察が把握していない数も相当ある。例えば、ネット詐欺に引っかかったからといっても警察に届けない人が多いように、実態が反映されているとは限らないのです。
犯罪件数に関しては、『犯罪被害実態(暗数)調査』(法務省が一般国民にアンケートを実施して行う調査)が参考になりますが、そこから考察するに、実際起きている犯罪数は認知件数のおよそ4倍、実際の検挙率は1割程度ではないかと推察されます」
別掲のグラフにあるように、日本の警察は昭和60年くらいまで、刑法犯の総数に対して60~70%の検挙率をキープしていた。しかし、その後、刑法犯の増加に伴い、検挙率が下がっていく。
刑法犯の認知件数は、平成8年以降、7年連続で戦後最多を更新し、平成14年には285万3739件に達した。ちなみに、平成13年の検挙率は19.8%で、戦後最低となっている。
「犯罪件数が急増したことで捜査に手が回らなくなり、検挙率は下落しました。それに対応すべく、警察は交番の統廃合を行うなどして、市井の巡査数を減らし、そのぶん捜査力を強化しました。その結果、近年、じわりじわりと検挙率が上昇してきているというのが昨今の流れといえます」(小宮さん・以下同)