日本はかつて「犯罪検挙率が世界一」「警察は世界一優秀」といわれていたが、いまはどうなっているのか?
『令和3年の犯罪情勢』(警察庁)によれば、わが国の刑法犯の認知件数は、平成15年以降、一貫して減少傾向にある。新型コロナウイルスが蔓延し始めた令和2年に前年比マイナス17.9%となり、令和3年は56万8104件と戦後最少を更新した。
統計上、コロナ禍で刑法犯認知件数が戦後最少レベルまで減少したわけだが、だからといって「日本は安心」とは言い切れないという。犯罪学者で立正大学文学部社会学科教授の小宮信夫さんはこう語る。
「警察発表は認知件数を基にした統計ですが、そもそも私は認知件数というものをあまり信用していません。というのも、認知件数は“被害届が出された数”だからです。認知に至るまでには、被害者が警察に通報し、警察がその事案を書類に記入する必要がありますから、実際のところ、警察が把握していない数も相当ある。例えば、ネット詐欺に引っかかったからといっても警察に届けない人が多いように、実態が反映されているとは限らないのです」
注目したいのが、「殺人発生率の国別ランキング」だ。国連の犯罪調査統計及び各国の司法当局、国際刑事警察機構などのデータによると、2020年の国別の10万人あたりの件数は、1位がベネズエラの49.88件。以下、2位ジャマイカ(44.68件)、3位レソト(43.56件)、4位トリニダード・トバゴ(38.57件)、5位エルサルバドル(37.6件)と続く。一方、日本は0.25件(142位)だ。
日本が安全な国といわれる理由に、この殺人発生率の低さを挙げる人も多い。だが、前出・小宮さんはこう語る。
「病院以外で亡くなった異状死体は警察で検視しますが、その際の解剖率は約1割で、日本は先進国の中でも異常に率が低い。北欧などは100%に近い解剖率で、警察が病死や自殺と推定したにもかかわらず解剖が行われますから、結果、他殺だったとわかるケースも実は多いのです。
最近では『オートプシー・イメージング(死亡時画像病理診断=Ai)』という診断方法がありますが、解剖に至らないまでも、CTやMRIで死体を診ることで死因を検証する方法がわが国でも広がってきています」
日本の解剖率が低いままなのは、解剖のできる解剖医が少ないという理由もあるという。
「結論からいうと、【1】殺人には暗数(実際の数値と統計結果の差)がないというのは疑問で、【2】見逃された殺人も年間2000件程度のレベルであるのではないか。さらに【3】日本は集団主義なので集団の中の犯罪は隠蔽されてきた、というのが私の意見です。
ですから、『今年も犯罪が減りました』という警察発表をうのみにせず、日本は必ずしも安全とは断言できないと考え、警戒を怠らないことです」(小宮さん)
ちなみに、夏に多いのが「プールでの性犯罪」だという。誰もが入れて見えにくい場所というもののリスクを意識しながら、常に自衛したい。
【プロフィール】
小宮信夫(こみや・のぶお):犯罪学者、立正大学文学部社会学科教授。日本人として初めて英ケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。著書に『写真でわかる世界の防犯 遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館)ほか多数。
取材・文/北武司
※女性セブン2022年9月8日号